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07 ふたりの過去③ 離れていても
卒業してからの椋は、あえてレンに連絡を取らないようにしていた。
頑張っている彼の邪魔をしたくなかった。
そして何より、いまはお互い、自分の夢に向かって歩くときだと思ったから。
一度だけ、保育士としての採用が決まった日。
どうしても伝えたくて緊張しつつもメッセージを打った。
《春から念願の保育士になるよ》
送信して数秒後、レンからすぐに返信が届いた。
《マジで!? おめでとう!!》
たった一言。けれど、その短いメッセージはとてもあたたかくて――
まるで自分のことみたいに喜んでくれる、それがレンだった。
それだけで、胸の奥にぽっと火が灯るようだった。
ふと顔を上げると、駅前の大型ビジョンにレンの姿が映っていた。
有名ブランドのアンバサダーとして、堂々と佇む彼の姿。
ほんの数年で、レンはどこまでも遠くへ行ってしまった――
そう思った瞬間、胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
(……よかった。僕がいなくても、大丈夫そうだ)
うれしい。誇らしい。
でも、さみしい。
「……僕も、がんばろう」
そっとスマホをポケットにしまって、椋は歩き出した。
レンのいない日常を、一歩ずつ。
****
それから2年。
椋は保育士として働き始め、忙しくもやりがいのある日々を送っていた。
慌ただしい毎日のなかでも支えになっていたのはレンの活躍だった。
出演作は欠かさずチェックしているし、ふたりで撮った高校時代の写真は、今でもベッドサイドに飾ってある。
眠る前、その写真にそっと唇を寄せるのが、椋のささやかなルーティンだった。
そんなある夜。
仕事を終えて帰宅し、ソファに腰を下ろした瞬間、スマホが震えた。画面に表示された名前に、椋の心臓が跳ねた。
――朝比奈レン。
慌てて通話ボタンを押すと、聞こえてきたのはレンではなく、別の男の声だった。
「突然のご連絡、失礼します。朝比奈のマネージャーをしております、石岡と申します」
「……えっ、レンの……?」
「はい。……実は今、朝比奈が少し不安定な状態でして。……子ども返りのような症状が見られるんです」
ほんの数秒、耳に届く声の意味を理解できなかった。
「今は落ち着いていますが、ずっとあなたのお名前を呼んでいて……私たちには、どうにもできなくて」
「……っ」
「ご都合がつけば、彼に、会っていただけませんか。こちらから迎えに伺います。」
「っ……!はい!会わせてください!」
椋の中に迷いはなかった。
息を整える暇もなく、スマホと財布を手に、椋は玄関を飛び出した。
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