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08 ふたりの過去④ 再会

ほどなくして迎えの車が到着し、椋は後部座席に滑り込んだ。 車内は静かだった。時折、石岡が慎重に言葉を選びながら話す。 「主演映画に抜擢されてから、彼はずっと、自分を追い込むように頑張っていました。周囲には平然と振る舞っていましたが……張り詰めすぎていたんでしょうね」 「そんな……」 「レンは常にあなたに似たぬいぐるみを持ち歩いていました。いつも話してましたよ。“大切な人がくれたんだ”と。きっと……あなたの存在が、彼にとってのお守りだったんでしょうね」」 ハンドルを握る横顔が、どこか悔しそうに見えた。 椋はただ、両手を膝の上に置いたまま、ぎゅっと握りしめていた。 (もっと、連絡してあげていればよかったのかな……) 胸の奥がじくじくと疼く。悔いても、悔やみきれなかった。 「小鳥遊さん、レンの家に着きました」 「ここが、レンの……」 静かに、車が止まった。 目の前に現れたのは、白を基調とした低層マンション。 控えめながら高級感のある外観に、椋はただただ呆気に取られた。 石岡に促されるまま、エントランスを抜け、エレベーターを上がる。チャイムを鳴らすと、ドアの向こうから現れたのは、五十代半ばと思しき男性だった。 「小鳥遊さん。お忙しいところ、本当にありがとうございます。朝比奈の事務所社長をしております。西田と申します」 「え……社長さん……!? いえ、そんな……!あの、レンは……」 「レンは今、奥の寝室におります。少し驚かれるかもしれませんが……」 その言葉に、椋は小さく息を呑んだ。レンがどんな状態でいるのか、想像するだけで胸が締めつけられた。 案内された寝室は、おもちゃ箱をひっくり返したように床一面に、ミニカーやぬいぐるみ、色とりどりのおもちゃが散らばっている。 その中心に――ぽつんと、レンがいた。 あの日、椋が贈ったぬいぐるみを胸に抱きしめながら、膝をかかえてしゃがみ込んでいる。 大きな身体を小さく折りたたむようにして、子どものように肩を震わせて泣いていた。 「……レン」 名前を呼ぶと、レンが顔を上げた。 涙に濡れた瞳が、ぼんやりと椋をとらえ―― 次の瞬間、ぱっと見開かれる。 「椋っ……!」 椋もまた、思わず駆け寄る。 言葉なんていらなかった。 ただ、ぎゅっと抱きしめた。 「レン……よく頑張ったね」 椋の声に、レンは堰を切ったように泣きじゃくった。

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