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11 翌日② ねぎらい

朝ごはんをふたりでゆっくり食べたあとは、ソファで並んで座り、一息つく。 しばらくの沈黙のあと、甘いテノールの声が静かに落ちる。 「……椋、こっちきて」 「ん?」 声の響きに、思わず胸がきゅっとなる。 言われるままに体を寄せると、レンの腕がそっと回って、背中をやさしく抱き寄せてきた。 「昨日は、ありがとう」 「いえいえ。……レン、気分はどう?」 「おかげさまで、すっかり元気」 レンが笑みを浮かべる。顔色も良いし、表情も穏やかだ。 「ほんとに嬉しかった。お子様ランチの車と、犬の刺繍……宝物がまた増えたよ」 ふとこぼれるその言葉に、椋も思わず笑ってしまう。 「ふふ、喜んでもらえてよかった。……最近ね、刺繍にハマっちゃってて」 ちょっとだけ照れながら、最近のマイブームを話すと、 レンは、ゆっくり頷きながら、やさしく話を聞いてくれた。 けれど、次の瞬間――レンの笑顔に、ふっと影が落ちる。 「……ほんと、俺、椋がいないと生きていけないよ。……情けないな」 かすれるような声に、胸がきゅっと締めつけられる。 「そんなふうに言わないでよ。レンは僕の誇りだよ。」 そのまま、そっと抱きしめた。 腕の中のレンの体温が、少し震えている気がして―― 抱きしめる手に、自然と力がこもる。 表舞台で輝く人ほど、 裏で抱えている闇は、深くて広い。 そんな“弱さ”を正直に曝け出してくれるレンが、 椋にとっては、なにより尊くて大切な存在なのだ。 しばらく、ふたりは何も言わず、静かに抱き合っていた。 けれど次第に――レンの手つきが、どこかあやしくなる。 椋の腰をなぞり、背中へと滑るように触れて、少しずつ熱を灯していく。 「……っ、レン……っ」 思わずもれた声に、レンが顔を寄せる。 「椋。……今度は俺に、いっぱい愛させて?」 その声に、胸が高鳴るのを感じて、椋はそっと頷く。 「うん……嬉しい。」 ふたりは、自然と立ち上がる。 そのまま手をつなぎ、静かに寝室へと歩き出す。 向かったのは、昨夜眠った部屋ではなく―― シンプルなキングサイズのベッドと、最低限の調度品が整えられた、 ふたりの本来の寝室へ。

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