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第一部 10章 一緒に暮らしてくれる?

 疼いてしまった身体は家に帰るまで我慢できそうになかった。  陽汰は晴斗を引っ張って車の後部座席へと乗り込み、性急に彼へと口付けを送る。 「んっ…ちゅっ…はると…んぅっ…」 「ふ、ぅっ…陽汰…ここで、良いの?」 「う、んっ…もう、我慢できない…」 「うんっ…俺も…」  晴斗は自分の鞄を引き寄せ、中からある物を取り出した。まさかそんな物を持ち歩いているなんて思わず、陽汰はつい訝し気な目でそれを見つめてしまう。 「…お前、いつもゴム持ち歩いてるの?」 「前のことがあったから一応」 「……」 「えっ、あっ、勘違いしないでよ!ひな兄以外に使うとか一切考えたことないからね!」  焦りを表すように以前までの呼び方に戻っていることにくすりと笑いが零れる。  もちろん晴斗が他の人にこれを使うわけがないことはわかっているし、それ以上に陽汰のためを思って持ち歩いてくれたことに嬉しさが込み上げてくる。  陽汰は悪戯っぽい笑みを浮かべながら晴斗の手の中からコンドームを奪い取り、それにちゅっと軽く口付けをした。 「ふーん、じゃあこれは俺が付けてあげないとな」 「えっ…!」  ズボンの上からでもわかるほどに膨らんだ部分を指先でなぞると、そこは陽汰が想像していたよりも遥かに硬くなっていた。  無意識にごくっと喉を鳴らし、ゆっくりとファスナーを下ろす。そして黒のボクサーパンツをずらすと狂気的なほどにでかく、硬くなった陰茎が姿を現した。 「でかっ…」  思わず零した一言に晴斗が恥ずかしそうに視線を逸らす。  今までも何度か彼の陰茎を見たことはあったが、そのどれもがお互いの発情期が発端で余裕なんてなかったため、こんなにもまじまじと見たのは初めてだった。  どくどくと青黒い血管を浮き上がらせた陰茎にそっと触れるとそれはビクッと震え、指を回して数回擦り上げると更に硬さを増した。 「ぅっ…ふっ…陽汰っ」 「気持ち良い?」 「うんっ…」  僅かに目元を赤くした晴斗の姿に陽汰の鼓動もドクドクと音を速めていく。手で擦っていると先端からは透明な液体が浮かび上がり、陽汰は一瞬考えた後、身を屈めてそこにちゅっと口付けをした。 「ひなッ…!」 「…やらせて」  はらりと落ちてきた髪の毛を耳にかけ、ビクビクと脈打つ陰茎の先端をゆっくりと口に含む。  少ししょっぱさを感じたが、全く嫌な気持ちにはならず、丸みのある先端に舌を這わせると晴斗の腰がビクッと震えた。その反応にもう少し奥まで咥えようとしたものの、彼の陰茎はあまりにもでかすぎて陽汰の小さな口では半分も飲み込むことができない。仕方なく入るところまで含んでゆっくりと頭を上下に動かしていると晴斗の手が陽汰の頭に触れた。 「はっ…陽汰…っ…気持ち良い…」  晴斗の指が髪の間に入り込み、次いで耳を優しく揉んでくる。彼の熱い指先に触れられた場所から快感が広がり、身体の熱が徐々に高まって後孔がじわりと濡れるような気がした。 「んっ…ぅっ…ぢゅっ…」  陰茎を咥えたままちらりと上を見ると、晴斗はじっと陽汰のことを見つめていた。その瞳にあるのは隠すことのできない欲望の色だ。そして、その興奮を表すように陰茎の先端から塩気と苦味の混じる液体がどぷっと溢れ出し、口内を満たしていく。 「っ…もう、いいよ…このままだと口に出しちゃいそうだから」 「ぅっ…んっ…」  先走りの液体をごくっと飲み下してから口を離すと、咥えていた部分は陽汰の唾液でてらてらと濡れており、咥える前よりも更に大きくなっているようにさえ見えた。  これが、今から中に挿入るんだ。  その大きさは少し怖くありながらも、鼓動は確実に音を早めており、顔の熱さも増していってしまう。それを誤魔化すように素早くコンドームを陰茎へと取り付けると、晴斗の手が陽汰の頬を撫でた。 「興奮してる?顔、赤くなってるよ」 「う、うるさい…」  これ以上赤くなった顔を見られたくなくて顔をふいっと背けると、視界の端で晴斗の指が陽汰のズボンのファスナーに触れた。ジジッと引き下ろされていく音が妙に大きく聞こえ、それに合わせて胸の鼓動も煩いほどに大きくなっていく。 「…陽汰」  ぎゅっと両手を握り締めていると晴斗の吐息混じりの声が耳元で聞こえた。その近さに思わずピクッと身体が跳ね上がってしまう。  彼の熱い息が耳にかかり、そして脳に直接吹き込むように低い声が囁いた。 「自分で脱いで。俺の上に来て」 「……ん」  発情期でなくとも陽汰の身体は晴斗に埋め尽くされたいという気持ちが限界まで高められていた。  ズボンとボクサーパンツを一纏めに下ろすと、そこは前からも後ろからも溢れた液体でぐしょぐしょに濡れており、その光景にカッと身体が熱くなる。  晴斗にももちろんそれを見られており、彼は口角を上げて脚の上へと陽汰を導いた。 「俺の咥えただけでこんなに濡らしちゃったんだ…ここも早く欲しくてたまらないみたいだね」 「ん、ぁっ…!」  つぷっと一本の指が後孔に押し込まれ、反射的にきゅっとそれを締め付けてしまう。彼の長くて骨ばった指が濡れた内壁を擦っていくが、本当に欲しいのはそれではなかった。  もっと、太くて硬いもので埋め尽くしてほしい。 「はるとっ…んっ…ちがう…それじゃなっ…ぁあっ!」  言っている途中で指が一気に三本へと増やされた。圧迫感が増し、三本の指がバラバラに動いて内壁を擦るが、指では届かないもっと奥が更に疼いてきてしまう。  ビクビクと震えながら首を横に振るが、晴斗が指を抜く気配はなく、瞳に涙が浮かんでくる。 「や、ぁっ…指じゃ、ゃだっ…はるとっ…」 「何が欲しいのかちゃんと言って?」 「…ん、っ…はるとのっ…大きいの、ほしっ…ひ、ぁっ!?」  三本の指で前立腺をぐっと強く押され、ビクンッと身体が跳ねて目を大きく見開く。そのままその指は前立腺を挟み込むようにしてガクガクと揺さぶり、瞳から大粒の涙が零れ落ちた。  強すぎる快感に耐え切れずに晴斗の肩へと顔を埋めると、している行為とは裏腹に優し気な声が再度尋ねてくる。 「大きいのって何?教えて、陽汰」 「や、やぁっ…はるとのっ…んぁっ…はるとのがっ、ほしいのっ…」 「ふっ…陽汰は恥ずかしがり屋さんだね…じゃあ、陽汰が欲しいもの、自分で入れてみて?」  その言葉と共に三本の指が一気にズルッと引き抜かれた。突然質量を失った後孔はきゅうきゅうと収縮を繰り返し、中途半端な状態で放置されたことに身体の疼きは益々ひどくなっていく。  陽汰はゆるゆると肩に埋めていた顔を上げ、視線を下へと向ける。そこにはコンドームに覆われた十分すぎる程に勃起した陰茎があり、涙で霞んだ視界の中でもその色や形ははっきりと瞳に映り込んだ。  ごくっと息を飲み、陰茎の先端へとひくつく後孔を押し当てる。ゆっくりと腰を下ろしていくと長大な陰茎がぬかるんだその場所を押し開いていき、陽汰の口からは甘い吐息が零れ落ちた。 「んっ…ぁっ…はる、とっ…ぁ…あつっ…」  ぐちゅっ、ぬぷっと濡れた音が響き、身体の熱も更に上がっていく。  ロングコートとニットのタートルネック、中にはヒートテックまで着ている陽汰の全身はしっとりと汗を掻いていた。それに気付いた晴斗の手がロングコートに伸びたが、陽汰はふるふると首を振ってそれを止めさせた。 「脱がない?」 「…外から見えたら、やだ…」  車内の電気はつけていなかったが、月明かりによって真っ暗というわけではなかった。いくら人気がない場所だからといっても誰も近くを通りかからないという保証はない。ロングコートによって結合部が隠されているというのは陽汰にとっての安心材料となっていたのだ。 「わかった。じゃあ、暑さでやられないように…」  晴斗の手が陽汰の服の裾を掴んだ。そして、ニットとヒートテックががばっと一気に持ち上げられる。  暖房を入れているとはいえ、いきなり外気に素肌が晒され、驚きでぐちゅっと晴斗の陰茎を更に飲み込んでしまった。 「ゃ、あぁっ!」  ひくひくと身体が震え、晴斗の肩を両手でぎゅっと掴む。  晒された二つの薄紅色の突起はふるふると震えて存在を主張しており、晴斗の指がその周りをそっと撫でた。 「ぁ、あっ…はる、とっ…」 「陽汰、片手でここ持って。腰下ろすのは止めないでね」 「えっ…ゃ、っ!」  肩に置いていた右手を掴まれ、晴斗が持っていた服の裾を掴まされる。まるで自らその場所を彼に晒しているような姿に、すぐにでも裾を下ろそうとしたのだが、晴斗の手はそれを許してくれなかった。  彼は片手で乳首をきゅっと摘み、もう片方の手で陽汰の汗ばんだ腰をゆっくりと撫でてくる。 「ほら、陽汰、欲しかったんでしょ?頑張って」 「ふっ…ぅっ…ひ、ぅっ…そこっ、や、あぁっ」 「嫌じゃなくて、好きでしょ?乳首、もうこんなに硬くなってる。反対もやってあげないとね」  片側の乳首を指先で転がされたまま、触れられていなかった方の乳首に彼の唇が近付いた。  ちゅっと軽く口付けされたあと、熱い舌がゆっくりと乳輪をなぞり、そのもどかしい刺激に服を掴む手に無意識に力が入ってしまう。 「ん、ぅ…はると…」  もっと強い刺激が欲しい。そんな欲望が顔を覗かせ、気付けば自ら胸を晴斗の唇に押し付けてしまっていた。  それに気付いた晴斗は乳首を口に含んだままニヤリと口角を上げ、陽汰の期待に応えるようにその場所に軽く歯を立てた。 「あぁっ!」  痛みと快感が綯い交ぜになり、反射的にその刺激から逃げようとする。だが、後ろに逃げようにも腰に置かれた晴斗の手がそれを許してくれるわけがなかった。それどころか腰の動きが止まってしまっていることを咎めるように小さくパンッとお尻を叩かれてしまう。 「ひぅっ…!」  痛みはほとんどなかったものの、叩かれた音に驚いてぎゅっと目を瞑る。すると今度はその場所をむぎゅむぎゅと揉んできた。  陽汰のお尻の肉は多くはないものの、筋肉がないためそこはとても柔らかい。晴斗の指が沈み込み、少し引っ張られると後孔の縁も広げられ、僅かに空いた隙間から感じる空気にぞくりと身体が震えた。 「もうちょっとだよ」 「ぅ、っ…はるっ…あ、あぁぁっ!」  ぎゅっと強めに乳首を指で引っ張られた瞬間、ビクッと身体が跳ね、途中まで埋まっていた陰茎を一気に飲み込んでしまった。  奥まで貫かれた衝撃に口をはくはくと動かし、目の前にチカチカと白い光が飛び散る。 「奥まで入ったね」 「ぁ、うっ…はる、と…はると…んぅっ」  陽汰の強請るような甘い声に、晴斗は熱くなった唇同士を重ね合わせた。快感によって唾液の量が増え、互いの舌が絡み合う中、それは陽汰の顎を伝い落ちていく。  唇を離すと陽汰の瞳は完全に蕩けており、その表情は晴斗の嗜虐心を煽ってきた。 「陽汰、自分で動ける?」 「えっ…?」 「こうやって、自分で上下に動いてみて?」 「ひ、ぁっ…!」  両手で腰を掴まれ、僅かに上下に動かされる。鉄のように硬くなった彼の肉棒が熱くうねる内壁を擦り上げたが、その動きは決して激しいものではなく、微弱な刺激がかえって欲望を膨らませていった。  もっとたくさん擦ってほしい。そんな気持ちがむくむくと大きくなっていくが、晴斗は意地悪なことにそれ以上腰を動かしてはくれず、掴んでいた手も離してしまった。 「はると…もっと…」 「欲しいなら自分で動かなきゃ」 「うぅっ…」  陽汰は服の裾を掴んでいた手を離し、晴斗の両肩へと両手を置いた。膝をシートに強く押し付け、ゆっくりと奥まで突き刺さっている陰茎を引き抜いていく。  張り出た亀頭が内壁を擦っていく感覚にぴくぴくと震えながらも、途中まで引き抜いた剛直を再びゆっくりと中に収める動作を繰り返した。 「陽汰、上手だよ。もっと早くしてみて」 「ん、ぁっ…」  言われるがままに腰の上下を少しずつ早めていく。最初はシートに強く押し付けていた膝もいつしか僅かに浮き上がり、足の指先にぎゅっと力を入れてより上下しやすい体勢へと変化していた。 「ふっ…陽汰、えっちだね」 「やっ…ちがっ…」 「こんな風に自分から腰振って、えっちでしょ?」  晴斗の手がコートの下へと潜り込み、背中から腰に向かって指が滑っていく。そして陽汰の感じやすい場所でもある尾骨へと辿り着いた。  その瞬間、身体が大袈裟なほどにビクッと跳ね上がり、埋め込まれた陰茎をきゅっと締め付けてしまった。 「や、やだぁっ…はると、そこっ…や、ぁっ」 「やっぱりここ弱いんだね」  尾骨を撫でられ続け、ふるふると首を横に振るが、彼はそれを止めてはくれなかった。  中途半端な所まで陰茎を咥えた状態で脚の細かな震えが止まらなくなってしまい、助けを求めるように晴斗の瞳を見つめる。しかし、彼は助けるどころか双丘の間に指を滑らせ、広げられて薄くなった後孔の縁を指先でなぞってきたのだ。  薄い敏感な皮膚を撫でられたことでガクンッと脚の力が抜け、途中で止まっていた陰茎を最奥まで一気に飲み込んでしまった。 「あ、あぁぁっ!」  大きく目を見開き、目尻に溜まっていた涙がぼろっと零れ落ちる。視界に映った晴斗と目が合うと、彼は僅かに口角を上げ、陽汰の柔らかなお尻を強く掴んだ。 「ごめんね、陽汰、俺も限界」 「ひ、あぁっ!」  先程までの陽汰の拙い抽挿とは打って変わり、晴斗は下から激しく突き上げてきた。  前立腺も生殖腔も強く叩きつけられ、結合部からはぐちゅぐちゅと淫猥な水音が絶え間なく響き渡る。  後孔を更に広げるようにお尻を左右に引っ張られたまま強く突き上げられた瞬間、全身に電気が流されるような感覚が陽汰のことを襲った。 「あ、あぁっ、はる、とっ、だめっ…んっ、だ、めっ…あぁっ!」  ビクンッビクンッと身体が跳ね、ぎゅうぎゅうと晴斗の陰茎を締め付ける。明らかに絶頂していたのだが、すぐに何かがおかしいことに気が付いた。 「な、なんれっ、あぁっ」 「陽汰、イった?」  透明な液体を流しながらふるふると震えている陽汰のペニスは興奮を表すように赤みを増している。だが、その先端からは精液が出ていなかった。  この射精を伴わない絶頂は陽汰を狂おしいほどの快感の海へと溺れさせていく。 「あ、あっ、はるとっ、へんっ、からだ、おかしっ、ぁっ…また、くるっ…ひ、ぁあっ!」  ビクビクゥッと全身が震えるが、またしても陰茎からは精液が出てきていない。連続の絶頂に涙が勝手にぼろぼろと零れ落ちて止まらなくなってしまう。  ぼやけた視界の中で晴斗の顔を見ると、彼はすかさず陽汰の唇に激しい口付けをしてきた。  唾液が零れ落ちるのを気にする余裕もなく、お互いの口内を貪り合っていく。その間も陽汰は何度もピクッピクッと震え、イっているのかイっていないのかもわからない状態になっていた。 「んぅっ、ぁっ、はる、とっ…は、ぁっ…んっ…すきっ…はると、すきっ…」 「俺もっ…陽汰、好きだよっ…くっ」 「ぅ、んっ…あっ、あぁぁっ!」  どちゅっと勢いよく最奥を突き上げられ、目の前にチカチカと光が瞬く。その瞬間、身体の奥底でどくんっと陰茎が脈打つのを感じた。晴斗の小さな呻き声と共にゴム越しにどくどくと精液が叩きつけられていく。  ひくっひくっと身体が痙攣し、薄く目を閉じながら快感に喉を仰け反らせていると、晴斗の大きな手が髪の間に差し込まれた。  涙で濡れた睫毛を震わせながらその手に導かれて顔を傾けると温かな唇が陽汰の唇に触れる。  それは先ほどの貪るような激しさはなく、愛おしむような優しい口付けだ。  唇の柔らかさを堪能するように啄み、ちゅっと軽い音を立てて離れていくのを感じてから瞼を開くと、二人の熱で曇った窓から月明かりが差し込んだ。  その明かりに照らされる中、二人は我慢できずにもう一度ゆっくりと唇を重ね合わせた。 「…んっ…はると…」 「ん?」  陽汰は晴斗にぎゅっと抱きついた。彼の首元に顔を埋めると森林の香りと晴斗の身体の匂いが広がり、陽汰に安心感を与えてくれる。それを胸いっぱいに吸い込んだ瞬間、気持ちが溢れ出るかのように涙が浮かび上がってきてしまった。  ぐすっと鼻を鳴らし、晴斗の服をきゅっと掴みながら小さく呟く。 「…こんなに幸せで…良いのかな…」  消え入りそうなその声に、晴斗は顔を埋めたままの陽汰の頭にそっと口付けをした。  まだ事後の余韻が消えずに小さく震える彼の身体を優しく抱きしめ、淡い金木犀の香りに自然と笑みが浮かび上がる。 「ダメなわけないよ」  ◆  換気のために開けた窓の隙間から吹き込む夜風が陽汰の頬を撫ぜた。その冷たさに晴斗の腕の中に抱かれた身体がぶるっと震える。 「寒い?」 「ん、ちょっと」 「そろそろ換気も良さそうだし、閉めようか」  晴斗が腕を伸ばして窓をしめ、再び陽汰を抱き締める体勢へと戻った。  陽汰が彼の胸に顔を埋めるとそこからはとくとくと落ち着く心臓の音が聞こえてくる。その音と彼の香りに包まれながら陽汰はぽつりと言葉を漏らした。 「晴斗…好き…」  少し掠れ気味のその声の中には僅かに震えも混じっており、晴斗は陽汰の頭を優しく撫でていく。 「……ずっと、生殖腔に問題があるから、晴斗のこと幸せにできないって思ってた…それが怖くて、お前に好きだって言われても、逃げてた…けど、晴斗が俺から離れて、別の誰かと一緒になるって考えたら…我慢できなくなっちゃって……わがままでごめん…」  こんなことを言ったら重いと思われるかもしれない。だけど、晴斗にはきちんと伝えておきたかった。  今思えば小さな頃から他の誰かと恋愛したい、なんて思ったことがなかった。それは一番近くにいた晴斗の存在が大きすぎたから。他の誰かと一緒になるなんて考え、頭の片隅にすら浮かんでこなかったのだ。だけど、一番近くで一番大事だからこそ、幸せにしてあげることができないという現実が怖くて辛かった。  陽汰の頭を撫でていた晴斗の手が背中へと下がり、手のひらでぽんぽんと優しく叩いてくる。 「陽汰、俺は他の誰でもない、陽汰と一緒にいられることが一番の幸せだよ。それに、生殖腔に問題があって子ども作れなかったとしても、子どもを作ることだけが幸せな家族ってわけじゃないでしょ?」 「……うん」 「ふっ…陽汰は頭良いのにバカだなぁ。子ども作れないのは陽汰だけじゃないんだよ?」  バカ、と言われたことと、晴斗の言っている意味がよくわからずに彼の胸元から顔を上げる。その視界に映った彼の表情は得意気でもあり、悪戯っぽくも見え、陽汰の頭の中には大量の疑問符が浮かんだ。 「どういう意味?」 「ふふんっ、俺だって妊娠できないんだから陽汰と同じでしょ?試しにやってみる?」 「……ぷっ…あはっ、はははっ」  一瞬言葉を失ってしまったが、晴斗の言った冗談の内容につい笑いが零れてしまう。  今までずっと、自分はオメガなんだからいつかは子どもを作るべきだと思っていた。それがオメガに生まれた宿命だと。だからそれができない自分が晴斗と一緒にいる資格はないのだと。だけど、それは陽汰の思い込みだったのだ。子どもができなくてもこの大好きな幼馴染はずっと傍にいてくれて、それを幸せだと言ってくれる。  ずっと悩んでいたことを優しく受け止めるだけでなく、こうやって笑わせてくれる彼だからこそ、陽汰はこんなにも好きになったのだ。  陽汰は笑いながら晴斗の髪をくしゃくしゃと撫でた。 「そんな風に揶揄うならまた弟に戻しても良いんだぞ?」 「んー、俺は陽汰にとって弟であり、恋人であり、夫である。これじゃダメ?」  ちゅっと軽いキスをしながらそんなことを言う晴斗に、陽汰からもちゅっとキスを返す。  陽汰の横顔を満月の明かりが照らし、彼の顔に浮かんだ幸せに満ちた笑顔を更に綺麗に見せた。 「ダメじゃないよ。じゃあ、俺からも一つ。これからも一緒に暮らしてくれる?」 「もちろん。ずっと一緒だよ」

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