11 / 30
第二部 1章 中に出して良いよね
東条陽汰と高瀬晴斗が付き合い始めて約半年。
陽汰は大学四年生、晴斗は大学一年生になった。晴斗は受験勉強を頑張った甲斐もあり、無事に陽汰と同じ大学に入学。学部が違うため、同じ講義に出るということはほとんどないが、一緒に大学に通うという夢を果たすことができ、二人は日々を楽しく過ごしていた。
元々一緒に住んでいたため付き合ってから何かが大きく変わる、ということはなかったが、一つ言えるとすれば発情期に関係なくセックスをする回数が増えたことくらいだろう。それは晴斗から求めることもあれば、陽汰から求めることもあり、お互いの服の下からキスマークが消えることがないくらいだ。
そんな平穏な日々が続いていたある日、晴斗は大学内で見たくない光景を目にしてしまった。
その日の最後の講義が終わり、晴斗が家に帰るため校内を歩いていると、遠くのほうに見覚えのある姿を見つけた。
「ひな、た…?」
つい、ぽつりと彼の名前が零れ落ちる。
彼は今日、大学には来ていないはず。どうしてここにいるんだ。
そのうえ彼は誰かと親しげに話しており、その距離の近さに晴斗の中でもやもやとした気持ちが広がっていく。
交友関係に口出しする気はないが、あまりにも近すぎるんじゃないか?
彼らとは少し距離があったため、二人が何を話しているかはわからないし、陽汰がどんな顔をして話しているのかもわからない。だが、自分の恋人が他の男と触れ合いそうな距離で話している光景は見ていて気分が良いものではなかった。
晴斗はこれ以上見ていたら変に暴走してしまう気がして、二人から視線を外そうとする。しかし、その瞬間、陽汰が相手の胸に寄りかかったのが視界に入ってきた。
「ッ…」
晴斗は考えるよりも先に駈け出していた。
距離があると言えども晴斗は運動神経も良く、身長も高い。その長い脚はすぐさま陽汰の元へと辿り着いた。
「陽汰!」
「え、あっ、晴斗!?」
驚きの声を上げた陽汰の手首を晴斗は迷うことなく掴んだ。触れた手首から伝わる熱に更に苛立ちが募り、きつく握りしめながら校門のほうへと向かっていく。
引っ張られて少しよろめきながらも陽汰は振り返って一緒に話していた男へと声を掛けた。
「悪い、さっきの話また今度」
「あ、はい…先輩、その人は…」
「それも今度話すから。ちょっ、晴斗…!」
ギリッと強い力で手首を握られ、思わず非難めいた声が出てしまう。
突然現れてこんな風に強引に引っ張られ、陽汰にはわけがわからなかった。しかし、前を歩く晴斗の背中からは怒りの感情が滲み出しているように見え、ここで抵抗すべきではないと陽汰の本能が告げている。
仕方なく晴斗に引っ張られるまま歩いていると、突然、ぐらっと視界が歪んだ。
「ッ…!」
ドクドクと鼓動が速まり、喉がカラカラに乾いていく。足がもつれそうになりながらも必死に歩みを進める身体には冷や汗が浮かび、抑えきれないフェロモンが陽汰の身体を包み込んだ。
「は、ぁっ…ん…っ…はぁっ…」
家までの距離はまだある。それなのにこんな街中で発情期がきてしまうなんて。
今すぐにでも抑制剤を打たなければいけないと思いながらも、目の前で怒りを露わにしている晴斗に何て声をかければ良いかわからなかった。
「陽汰」
「…ッ!」
低い声にビクッと身体が震える。彼は陽汰に発情期が来てしまったことに気付いているはずだ。いや、気付いていないわけがない。何せ今日の朝から発情期を予兆するかのように熱が出ていたのだから。
「今日は大学休んだほうが良いって、朝言ったよね?」
「……うん」
「それで、なんで大学にいたの?それにさっきの男は?なんで抱きついてたの?」
「ちがっ…あれはよろけたのを支えてもらっただけで…あいつはただの後輩…ちょっと用があって…」
実際、朝の時点では大学を休もうと思っていた。しかし、いつもより熱が上がらず、暇を持て余しているところに後輩から連絡が入ったのだ。陽汰の持っている資料を借りたいと言われ、少し迷ったものの資料を渡すだけなら大丈夫だろうと軽く返事をしてしまった。
結果として、陽汰の軽率な行動は家に辿り着く前に発情期がきてしまうという状況を作り出し、そのうえ後輩と一緒にいるところを晴斗に目撃されてしまったのだ。
「……ごめん…」
「……」
もっと、慎重になるべきだった。発情期前で、しかも会うと約束した相手がアルファとなれば尚更。
晴斗の気持ちも考えずに動いてしまった後ろめたさから視線を下げると、晴斗の手が再度、陽汰の手首をぎゅっと握りしめた。
「……陽汰、こっち来て」
「何処、行く気…?」
晴斗が向かっている方向、それは明らかに家に帰るルートからは外れている。彼が一体何処に向かっているのか検討もつかず、ただ引かれるがままについて行くしかない。
道路の両側の建物に視線を巡らせると、最初は普通の店ばかりだったが、次第に怪しげな店や派手な看板が目立つようになっていく。そして、晴斗の足がある建物の前で止まった。
「え…ここって…」
彼が足を止めた場所、それはラブホテルだ。
まさかこんな所に連れて来られるとは思わず、目をぱちくりさせてしまう。すると、晴斗が陽汰の腰に手を回し、耳元で囁いた。
「そんな状態じゃ家まで帰れないよね」
「っ…!」
確かに今の状態で家まで帰るのは拷問だ。それに、自分自身だけでなく、フェロモンによって他のアルファやオメガにも影響を与えかねない。
フェロモンの香りは益々強くなっており、道を歩く人々がちらちらとこちらを見てくる視線を感じる。
「ねぇ、もし俺がここに陽汰を一人残して帰ったら、どうなると思う?」
「え…」
晴斗の言葉に大きく目を見開く。
発情期中、一人にされる、こんな怪しげな場所に。
そんなことになったら、フェロモンに誘惑された見知らぬアルファたちが集まってきて、理性を失った彼らに犯されてしまうかもしれない。
晴斗以外のアルファが、陽汰の中に入ってくる。
それを想像した瞬間、背筋がぞくっと震えた。一度考えてしまったことはどんどん悪い方向へと向かっていき、全身に冷や汗が浮かび上がる。
ドクンッドクンッと耳の奥で鼓動が脈打つ音が大きく響き、気付けば震える指先で晴斗の服の裾を掴んでいた。
「陽汰、どうしたい?」
「……や、だ…置いて、行かないで…」
「うん。じゃあ、こっち来て」
晴斗の手が腰から離れ、建物の中へと歩いていく。それはまるで陽汰の意思でついてくるように言っているようであり、陽汰は晴斗の服の裾を掴んだまま、彼の後を追った。
ラブホテルなんて今まで一度も足を踏み入れたことがなく、誰かに見られたらどうしようかと俯いたまま晴斗の後ろをついていく。もちろん晴斗も初めて入ったのだろうが、彼は受付を済ませて迷うことなく部屋へと向かった。そして、扉を開けた瞬間、陽汰は言葉を失ってしまう。
そこにあったのは普通の部屋、とは言い難い、黒と赤を基調にした部屋だ。壁には手錠やら鞭やらがかけられており、ホテルに入る前に一瞬だけ目に入った文字が脳裏を過る。
【SM部屋】
その時は深く考えもしていなかった。晴斗がこんな部屋を選ぶはずがないと思っていたから。
部屋の前で硬直していると、晴斗が後ろから陽汰のことを抱き締めた。彼の吐息が耳にかかり、ぞくぞくとした感覚が広がっていく。
「陽汰…俺が何で怒ってるかわかる?」
「……う…ん…」
発情期が近いのに晴斗の注意を無視して大学に行ったこと。後輩と親しげにしているだけではなくよろけて倒れかかってしまったこと。しかもその後輩は前々から晴斗が気にしていたアルファの後輩だったこと。それに、発情期まで来てしまったこと。そのどれもが晴斗を怒らせるには十分な理由に思えた。
部屋の中に金木犀の香りのフェロモンが充満していく中、晴斗からも森林の香りがするフェロモンが広がっていた。その圧倒してくるアルファフェロモンは息苦しさを感じさせるほどであり、いつもとは違う雰囲気にごくりと唾を飲み込む。
「じゃあ、一番怒っている理由、答えてみて」
「……後輩に倒れかかったこと…?」
きっとあの時に後輩の香りがついてしまって、それが火に油を注ぐことになったのではないだろうか。
陽汰と晴斗は番関係にはまだなっていない。だが、それでも別のアルファの香りがつくことはアルファの本能として受け入れられないはずだ。
陽汰はそう思ったのだが、晴斗は陽汰の後ろで小さく溜め息を吐いた。
「違うよ……一番は陽汰が自分の身体を大切にしなかったこと。今回はいつもより熱が上がってないって言ってたけど、それでも熱があったんだよ。それに、発情期が来て、もし俺がいなかったとしたら…それが危険だって、わかるよね?」
「……うん……ごめん…」
素直に謝罪を口にするが、晴斗の雰囲気は未だに怖いままだ。オメガの発情期に当てられたことでアルファの独占欲や攻撃性が増してしまっているのかもしれない。
陽汰が恐る恐る晴斗のほうへ顔を向けると、突然、その身体が強い力で引かれ、抵抗する間もなくベッドへと押し倒されてしまった。
「ぅっ…!」
「陽汰、言葉だけじゃなくて、身体にもわからせないとだよね」
「な、に…ひっ!」
両腕を頭上に持ち上げられ、間髪入れずにガチャンッという金属音が響き渡る。そちらのほうへ視線を向けると、両手は壁から伸びた手錠で固定され、いくらガチャガチャと動かしても取れる気配は微塵もなかった。
「晴斗ッ、やだっ、やめよう…こんなのだめっ…んぁっ!」
覆いかぶさってきた晴斗が陽汰の首筋にぢゅっと吸い付いてきた。いつもならば服で隠れるような場所にしか跡をつけない彼だったが、今日は寧ろ誰の目にも止まってしまうような場所につけてきたのだ。
チリッとした痛みのすぐあとに少し強めに歯を立てられ、彼の犬歯が皮膚に食い込む。その感覚はまるで獣の交尾を思わせるようで陽汰の瞳に恐怖の色が浮かんだ。
「痛ッ…は、るとっ…ゃ、あっ…ひぁっ!?」
彼の指がズボンの上から膨らみを持ち始めていた部分に触れた。口では嫌だと言いながらもそこは発情期の影響もあって反応を示しており、それを知らしめるように晴斗はゆっくりと指でその形をなぞってくる。
スウェット生地の緩めのズボンを穿いていたため、触られれば触られるほどに生地が持ち上がって存在を主張していく。そして、その微弱な刺激によって前だけではなく、後孔にもじわっと湿り気が広がっていくのを感じた。
「ん、ぁっ…はるとっ…」
「フッ…勃ってるね。どうしてほしい?」
「……脱ぎたい…」
「いいよ」
案外あっさりと陽汰の願いを受け入れてくれたことに内心驚いていると、晴斗は言った通りズボンと下着をずるっと引き下ろした。
晒された陰茎からは先走りの液体が溢れ、すっかり晴斗の形を覚え込んだ後孔もきゅうきゅうと収縮をしながら愛液を垂れ流している。
今すぐにでもそこに挿入れてほしい。
身体の奥底から湧き上がる本能が徐々に理性を失わせていき、全身が狂おしいほどの熱に襲われる。
「は、ると…ほしい…」
気付けば掠れた声で晴斗のことを求めていた。発情期の熱に侵された身体は常時の恥じらいなど微塵も感じさせないほどに欲望に忠実になっている。
陽汰は自ら脚を開き、少し腰を浮かせて晴斗に後孔を晒した。両手を頭上で固定されているため、少し苦しい体勢であったが、それよりも早く彼の一物で中を貫いてほしかった。
こうやっておねだりをすれば晴斗はいつもそれを叶えてくれる。
そう、いつもならば。
「ダメだよ」
「……え」
一瞬聞き間違いなのかと思った。だが、それは聞き間違いなどではなく、晴斗はベッドから立ち上がってしまった。
「はると…?」
「身体にもちゃんとわからせるって言ったからね」
彼はそう言いながら何やらベッドサイドの引き出しを漁り出した。両手を拘束されている陽汰は覗き込むこともできず、ただ彼の行動を目で追うことしかできない。そして、引き出しから取り出した物が視界に入った瞬間、目を大きく見開いた。
「や、やだ…!」
晴斗の手に握られていた物、それは黒い布とピンクの楕円形の物。使ったこと自体はないものの、その存在自体は知っている。
どうにか逃げられないものかともがいてみるが、そんな抵抗は無駄だった。布とローターを持った晴斗がベッドの上へと戻って来て陽汰の上へと跨ってくる。
「陽汰、痛いことはしないから安心して」
「や、だ…やだよ…晴斗…」
恐怖で声が震え、不安気に瞳が揺れる。ふるふると首を横に振るが、晴斗の手に持った布によってその視界はあっさりと閉ざされてしまった。
真っ暗になった視界の中、カチッと何かのスイッチが入れられる音が鳴り、次いでヴヴヴッと振動する音が響いてくる。
「陽汰、想像してみて。今日もし、発情期が来たときに俺がいなくて、見ず知らずの奴に襲われてたとしたら…」
耳元で囁かれる低い声は直接脳に響くような感覚を起こさせ、全身に緊張が走った。ドッドッドッと心臓が激しく脈打ち、額には冷や汗が浮かんでくる。
目の前にいるのは晴斗だ。そこにいるのは他の誰でもない恋人の晴斗だ。
陽汰は必死で自分にそう言い聞かせ、恐怖を打ち消そうとした。だが、その思いを掻き消すように突然、激しく振動する物体が敏感な突起へと触れた。
「ゃ、あぁっ!」
あまりの強烈な刺激に背中が仰け反り、その反動で手錠に繋がる鎖がガシャンッと派手な音を立てる。
敏感な先端に触れたそれはすぐに離されたが、今度は焦らすように乳輪をなぞった。時折、ふるふると震える先端に当てられ、その度に脳に甘い痺れが走り、口からは吐息と喘ぎ声が止まらなくなってしまう。
陽汰の後孔からは愛液がとめどなく溢れ出し、それに呼応するようにフェロモンの匂いもますます濃いものになっていた。
「ははっ、陽汰のフェロモンすごいね…こんな誘ってきたらどんなアルファだって耐えられないよ…」
「や、やぁっ…はるとだけっ…晴斗以外は…やだっ…ひぅっ!」
びしょびしょに濡れた後孔に熱いものが押し当てられ、目隠し布の下で目を見開く。きゅうきゅうと収縮するその場所は早く飲み込みたいとばかりに彼に絡みついていた。
「ねぇ、陽汰、誰の何にどうされたいのか、教えて」
「は、はるとのっ…」
「うん」
陽汰の答えを急かすように彼の陰茎の先端はちゅくっちゅくっと音を鳴らしながら後孔を弱く突いてくる。その度にひくっひくっと身体が震え、耐えきれないほどに全身が熱くなっていく。しかし、その場所の直接的な名前を口にする恥ずかしさはどうしてもまだ拭いきれていなかった。
いつもならば手を使ったり視線で訴えたりして言葉にせずとも晴斗を誘導することができたのだが、残念ながら今は両手を拘束され、目隠しもされてしまっている。
こんな言い方で許されるかわからなかったが、陽汰は小さな声で呟いた。
「…はるとの…おっきいの…ほしい…」
強請るようにきゅっと後孔の縁で晴斗の陰茎の先端を軽く締め付けると、彼はフッと軽い笑い声を零した。
先ほどよりもぐっと強い力で押し付けられ、そのまま奥まで貫かれるのかと思ったのだが、陽汰の予想に反して晴斗はその位置で止まってしまった。
「はると…?」
「もっとはっきり言えるよね。大きいのが何か、それでどうしてほしいのか」
「っ……」
「言えないなら…」
ヴヴヴヴッという振動音が先ほどよりも大きさを増して耳に響いた。それがおへそに当てられ、体内まで振動を届かせてくる。しかし、ローターはそこで止まらなかった。お臍から下腹部へ、そして更に下へと下がっていく。
その向かっている先に気付いた瞬間、陽汰は焦りの声を上げた。
「やだっ、晴斗っ、ゃめっ…!」
「ちゃんと言えたらやめてあげる」
「え、ぁっ…あぁぁっ!」
敏感な場所をローターの振動が激しく揺さぶってくる。それは亀頭や裏筋をなぞっていき、一気に絶頂へと追い詰めてきた。
真っ暗な視界の中に白い光が飛び散り、ガクガクっと腰が跳ねて堪える間もなく精液を撒き散らせてしまう。だが、晴斗はその場所に当てるのを止めてはくれなかった。
強すぎる快感に息の仕方すらも忘れ、はくはくと口を動かすことしかできずに涙が溢れてくる。
「またイきそうなんじゃない?」
「ゃ、あっ…おかしくっ、なっ…ひぁっ、ゃだぁっ…あ、あぁっ!」
こんなイキ方、何度もしたくない。そう思う気持ちとは裏腹に、身体は強制的に与えられる刺激には耐えられなかった。
先ほどよりも勢いの落ちた精液がどぷっと溢れ出し、陰茎やローターを汚していく。そして、その間も続けられる振動に精液とは違う、別の物が込み上がってくるのを感じた。
尿意のようでありながら、それよりももっと堪えきれないものがせり上がってくるような感覚。
「何処がおかしくなっちゃうのか教えて、陽汰」
亀頭の括れにグッと強めにローターを押し付けられた瞬間、全神経に電気が流されたかのような衝撃が走った。
「だ、めっ、あ、あぁっ、だめっ、おちんちんっ、こわれちゃ、あ、あぁぁっ!」
コントロールを失ったかのようにビクビクッと激しく身体が痙攣し、頭の中が真っ白になる。
自分が何を口走ったのかもわからず、びちゃびちゃと生温いものが身体にかかるのを感じていると晴斗の声が耳元で聞こえてきた。
「潮、吹いちゃったね。そんなにローター気持ち良かった?俺のはいらない?」
陰茎だけで十分イかされていたが、オメガの本能はそれだけでは満足していなかった。奥深くからどぷっと愛液が溢れ、シーツへと染みを作っていく。
そして、気付けばふるふると小さく首を横に振っていた。震える膝を立て、滑りを帯びて淫猥にひくつく場所を曝け出す。
「ゃ…あっ…いる…はるとの…ほしい…おちんちん…おくまで、ほしいの…」
まるでうわ言のように漏れた言葉に、晴斗はくすりと笑みを零した。
陽汰の後孔は薄紅色の内壁を僅かに覗かせながら収縮を繰り返している。愛液でぐっしょりと濡れたそこに未だ振動し続けているローターを押し当てると陽汰の身体がビクッと跳ねた。
欲しいのはそれではない、と首を横に振っているが、晴斗が少し押し込むだけで後孔は美味しそうにそれを飲み込んでいってしまう。
「や、ぁっ…ちがぅ…それ、ちがうっ…はると、はるとがいいの…ん、あぁっ!」
前立腺にローターが押し当てられ、再び意識が飛びそうになるほどの激しい快感に襲われる。内側から与えられる振動は、陰茎で感じたものよりも更に耐えられないものだった。
両脚がガクガクと震え、つま先はピンッと伸び、中に入るローターと晴斗の指をぎゅうぎゅうと締め付ける。その締め付けは陽汰自身を更に追い込んだ。
「ゃ、あぁっ、やらっ、イっ、あぁぁっ!」
ビクンッと身体が跳ね上がる。だが、陰茎からは精液が出ていなかった。射精を伴わない絶頂は陽汰の頭をますます混乱へと陥れていき、布に覆われた瞳からは涙が止まらなくなってしまっていた。
「ひっ、ぅっ…はるとっ…も、むり…たすけっ…ぅ、あぁっ!」
前立腺に当てられていたローターがずるずると引っ張られ、薄紅に色付いた内壁を見せながらぼとっとベッドの上に落とされた。
そこに転がったローターは陽汰の愛液でてらてらと光を反射しており、後孔からは愛液がとろとろと流れ出ている。
「は、ぁっ、はる、と…や、ぁっ…はるとっ…」
うわ言のように零れる言葉と共に濡れた蕾は、なくなったものを求めるようにきゅうきゅうと収縮を繰り返していた。
その縁を晴斗の指先がそっとなぞり、陽汰がひくっと身体を震わせると晴斗のフェロモンが一層強くなっていく。
その圧倒してくるアルファフェロモンに、陽汰は一瞬喉を締め付けられるような感覚に襲われた。
薄い胸を荒く上下させ、必死に呼吸を繰り返す。すると、ぴとりと濡れた後孔に熱いものが触れた。
「陽汰、挿入れるよ」
切羽詰まっているのか、それとも別の理由があるのかはわからなかったが、晴斗の声には少し強制感が漂っていた。
視界が奪われていることでそう感じてしまっただけかもしれない、そう思いながら陽汰はごくっと唾を飲み込んでから小さく頷いた。
「う、ん…晴斗…ちょうだい…んぁっ!」
ずぷぷっと彼の熱い杭が陽汰の中を突き進んでくる。愛液に濡れた内壁は待ち望んでいたものが入ってきたことを喜ぶようにきゅうきゅうと絡みつき、ドクドクと脈打っているのを感じ取る。
そして、何よりもその熱さ。
いつもよりも彼の陰茎が熱い気がするのだ。
まるで初めてセックスをした時のように熱く、陽汰の中をその熱で満たそうとしている。
「あ、ぁっ…はる、とっ…なんか、へんっ…いつもと、ちがっ…」
「……きっと発情期だからだよ。ほら、生殖腔もいつもよりも下がってきてる」
ぐっと強く生殖腔を一突きされ、陽汰の口から甲高い喘ぎ声が上がる。そのまま何度かぐっぐっと押され、陽汰の中の違和感は快感によって上書きされようとしていた。
熱い杭が何度も内壁を擦り上げ、発情期で疼く身体を奥底から満たしていく。陽汰の中から溢れる愛液も量を増し、結合部から響く淫猥な音が部屋に響き渡っていた。
「ん、ぁっ…おく、きもちぃ…んっ…ぁっ…」
「陽汰っ…」
晴斗の顔が近付く気配がし、顎を僅かに上げる。
唇が触れ合う、そう思った瞬間、突然スマホの着信音が部屋の中に響き渡った。
その着信音は陽汰のスマホだ。こんなタイミングで電話がかかってくるなんて。出られるわけがない。
放っておけばそのうち切れるだろうと思ったのだが、晴斗の低い声が聞こえてきた。
「ねぇ、アキラって誰?」
「えっ……」
着信音は未だ鳴り響いている。
晴斗の言った名前の人物、それが頭に出てきた瞬間、陽汰の全身からサァッと血の気が引いた。目隠しがなかったら陽汰が動揺していることがその瞳から容易にわかってしまっただろう。
晴斗が言った人物、それは大学の後輩だ。しかも晴斗が前々から気にしており、先ほども陽汰の不注意で接触してしまった人物。
そして、今もなお鳴っている電話の相手はまさしくその後輩、ということだ。
陽汰はスマホをズボンのポケットに入れていたため、さっき脱いだ時にポケットから出てしまったのかもしれない。そして、その画面が今、晴斗の視界の中に入っていると。
バクバクと心臓が煩いほどに音を鳴らせ、全身に冷や汗が浮かんでくる。
後輩とはやましいことなんて何もない。何もないが、今このタイミングで晴斗に何と言えば良いのかわからない。
返す言葉が何も思い浮かばず口ごもっていると、鳴り続けていた着信音がやっとのことで止んでくれた。
後輩が諦めてくれたことに一先ず安堵していたのだが、次に聞こえてきた音に陽汰の脳内は完全にフリーズしてしまう。
『もしもし、陽汰先輩?』
後輩が電話を切ったんじゃない。晴斗が通話ボタンを押したのだ。
スピーカー越しに聞こえる声は間違いなく後輩のものであり、陽汰の状況など全く知る由もない彼はいつもと変わらない調子で問いかけてくる。
『もしもし?先輩?聞こえてますか?』
聞こえてはいる。しかし、言葉を出すことができない。ましてや今は何も見えていないのだ。晴斗がどんな様子かもわからず声を出すことなんてできるわけがない。
完全に固まってしまっていると、晴斗の吐息が耳元で聞こえてきた。その声量は電話の向こうには届かないものだが、陽汰の耳にははっきりと聞こえた。
「陽汰、電話繋がってるよ。大切な後輩でしょ」
「…ッ……」
「早く答えないと怪しまれるよ。それとも陽汰の可愛い声、聞かせてあげる?」
晴斗の恐ろしい言葉に陽汰は必死に首を横に振った。そして、震えそうになる声をなんとか抑えながら電話の向こうへと声をかける。
「……どう、した…」
『あ、良かった。さっきの資料借りっぱなしで大丈夫かなって思って』
「う、ん…今度でだいじょう、ぶ…んっ!」
『先輩?』
結合部からぬちゅっ、ぬちゅっと濡れた音が響き、晴斗の陰茎が陽汰の生殖腔を押し上げた。咄嗟に唇を噛みしめて喘ぎ声を抑えることはできたが、晴斗は動きを止めてくれず、ゆっくりとだが確実に陽汰の弱い部分を突き上げてくる。
「…っ…ん、んっ…」
『先輩、聞こえてますか?電波悪いです?』
「わ、るいっ…いま、ちょっと…んっ…」
『あ、じゃあ、またあとでかけますね。ちょっと資料の中で聞きたい箇所あって』
「ん、あぁ…わるい…じゃあ、ぁ…ッーー!」
やっと電話が終わると安堵した瞬間、晴斗がどちゅんっと生殖腔目掛けて一気に陰茎を突き立ててきた。
その一突きで彼の陰茎が生殖腔に入り込み、全身がガクガクと激しく痙攣する。目の前を白い光がチカチカと明滅し、自分が息をしているのか、声が出てしまったのかもわからなかった。
はくはくと唇を開閉させていると晴斗の声が遠くのほうから聞こえてきた。
「陽汰」
「ぇ、ぁ……やっ、はるとっ、とまっ、んっ、でんわがっ」
「もう切ったよ」
簡潔に答える彼の声は冷え冷えとしており、喉がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。それを強調するように、いつもはもっと陽汰の身体を気遣ってくれる彼が、今は非常に荒々しく、奥深くを叩きつけてきた。
発情期によって身体はその行為でも喜んでしまう。しかし、それとは裏腹に心には寂しさが募っていった。
手の自由も効かない、目も見えない、晴斗の愛も感じられない。
そのことに隠された目元には生理的な涙ではない、別の涙が浮かび上がってくる。抑えようと思ってもそれは抑えきれず、布を更にしっとりと湿らせていった。
「ふ、っ…ぅっ…ん、ぁっ…はると…ゃ、あ…」
彼の陰茎が生殖腔にぴったりとハマり、中でドクンッドクンッと脈打つのを感じる。いつもよりも熱いその杭が、彼の射精が近いことを告げていた。それを搾り取るように陽汰の生殖腔は彼の陰茎に絡みついている。
きっと彼は今日もコンドームをしているはずだ。初めて身体を重ねて以来、彼がコンドームをせずに行為に及んだことはなく、それが陽汰のことを大事にしている証拠でもある。
生殖腔の中が彼の精子で満たされることはないが、それでも幸せだった。
だから、次に晴斗の口から出た言葉が信じられなかった。
「陽汰、妊娠しないなら、中に出して良いよね」
静かに告げられた一言。
そのたった一言で、陽汰の世界から音も感触も匂いも全てがなくなったような気がした。
ともだちにシェアしよう!

