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第二部 9章 家族って良いね
「こむぎ、病院行くぞ」
「にゃぁ」
保護施設から猫を引き取って二週間ほどが経った。最初こそビクビクとしていた猫だが、意外にも適応力が高く、今では元々ここの家の住人だったのでないかと思うほどに馴染んでいる。
それは保護施設で感じた運命みたいなものを猫も感じていたからなのかもしれない。
あの時の出会いの直後、陽汰はその猫に『こむぎ』という名前を付けた。薄茶色の毛と、陽汰と晴斗の元で元気に育ってほしい、そんな思いでこの名前を付けたのだ。
ふわっとした毛玉が陽汰の腕に抱かれ、ごろごろと喉を鳴らす姿に自然と笑みが浮かび上がる。
「すくすくと育つのは良いけど、最初の頃より大分重くなったんじゃないか?肥満って言われるかもしれないぞ」
「にゃ?」
猫にはわかりませんとでも言いたげな顔に陽汰はぷっと小さく吹き出し、頭を撫でてからこむぎをキャリーケースの中へと入れた。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、よろしくね」
晴斗と軽いキスを交わし、陽汰は笑みを浮かべながらこむぎの入ったキャリーケースを持って玄関を出た。
今日は動物病院にこむぎを連れて行き、健康診断と避妊手術の相談をするつもりだ。最初は避妊手術をすべきか悩んだものの病気などのリスクを考えてやはり手術はしたほうが良いだろうという結論になった。
本当は晴斗も一緒に行く予定だったのだが、急遽バイトでのヘルプをお願いされ、病院の予約もずらせなかったため陽汰が一人で行くことになったのだ。
多頭飼育崩壊から助けられた猫であるため、変な病気がないか、検査に異常が出たりしないかなど心配な部分はある。しかし、ここでしっかりと診てもらうことが飼い主としての責任だと陽汰はケースの取っ手をぎゅっと握り締めながら中にいるこむぎに向かって声をかけた。
「こむぎ、頑張ろうな」
「にゃっ」
こむぎに陽汰の言葉がわかっているのかは不明だが、その元気な鳴き声は陽汰を勇気づけるには十分だった。
◆
「ただいまー、あれ?こむぎ、陽汰は?」
「にゃぁ」
晴斗が帰宅すると家の中にはソファの上で眠そうにしているこむぎだけしかいなかった。
こむぎがいるということは動物病院の受診は問題なく終わったということ。だとしたら陽汰は一体何処に行ってしまったんだ…?
スマホを取り出して陽汰に電話をかけようとしたところ、玄関のほうからドタバタと廊下を走ってくる音が聞こえてきた。そして数秒もしないうちに勢いよく扉が開かれ、その先には今しがた電話をかけようとしていた相手が興奮した様子で立っている。
「晴斗!赤ちゃん!」
「は、えっ…陽汰が!?」
「違う!俺じゃなくてこむぎ!」
「え、えぇっ!?」
まさかの言葉にこむぎのほうへ目を向けるが、当の本人は呑気にぺろぺろと毛繕いをしている。
毛が長いためお腹が膨らんでいるかどうかパッと見ではわからない。だが、その小さな身体には新しい命が宿っているというのだ。
陽汰は少し息を乱しながら急いで買ってきた妊娠期用のペットフードをテーブルの上へと置き、喜びを表すように晴斗へと抱きついた。
「あと一ヶ月くらいで産まれるって。すごい、こむぎがお母さんになるんだよ」
動物病院で医師に妊娠のことを告げられた時、陽汰は一瞬夢でも見ているのではないかと思った。避妊手術をするつもりだったこむぎのお腹の中にまさか赤ちゃんがいるなんて。
最初に訪れたのは驚き、そしてそれはすぐに喜びに変わった。
子どもができない陽汰の代わりにこむぎが大家族を作ってくれる、そんな風にも思えたのだ。
「猫って一回の出産で何匹も産むって言うし……晴斗が家族作ってくれるって言ってたけど、まさかこんな大家族になるなんて思わなかった」
「これは俺も予想外だよ。けど、すごく嬉しい」
「うん。ふふっ…このサプライズも晴斗とこむぎからのプレゼントってことかな。ありがとう、俺に家族を作ってくれて」
陽汰は少し背伸びをして晴斗の唇に自身の唇を重ね合わせた。そのまま舌を絡めそうになったが、視界の端に二人をジッと見つめているこむぎの姿が映り、陽汰は自分の欲を抑えるように慌てて舌を引っ込めた。
「こむぎが見てるから、これ以上はだめ」
「こむぎが見てないところなら良い?」
「えっ?う、わぁっ!?」
突然ふわっと身体が宙に浮き、晴斗に軽々と抱き上げられてしまう。不安定な姿勢にぎゅっと晴斗へとしがみつくと彼の声が耳元で囁いた。
「赤ちゃん産まれたらこういうことできる時間少なくなっちゃうかもだから…いい?」
脳に響く低い声に陽汰の身体がぴくりと跳ね、じわじわと顔が熱くなっていく。こむぎを飼い始めてからなんだかんだで忙しく、暫く抱かれていなかった身体がずくんっと疼いた。
チラッとこむぎのほうを見ると、こむぎはソファの上で丸まって少し眠たそうにしている。陽汰はごくっと一つ息を飲んでから晴斗の耳元へ唇を寄せた。
「俺の部屋、連れてって」
「うん、了解」
それからあっという間に一ヶ月が過ぎ、こむぎは無事に三匹の赤ちゃんを出産した。
ころころと駆け回る可愛い子猫たちとそれを見守るこむぎの姿は毎日の癒しだ。しかし、少し懸念点も出てきた。それは部屋の大きさ。
今はまだ猫たちが小さいからこの部屋でも十分だろうが、成長したらきっと手狭になるだろう。
「晴斗、引っ越ししない?良さそうなところいくつか見つけたんだけど…」
大学やバイトの合間を縫って探した賃貸情報をテーブルの上へと広げると、晴斗が陽汰を後ろから抱きしめながら覗き込んできた。
彼の温かさを感じる中で各物件の良さそうなところを説明していく。何軒目か言い終えたあと、耳元で晴斗がフッと笑みを零した。
「どうした?何か変だった?」
「いや、前に俺が引っ越さなきゃいけないってなった時のこと思い出してさ。あの時は一人で探してたし、陽汰と離れたくなくて情けないけど泣いちゃったなって」
賃貸情報の紙に残されていたメモと涙の跡。陽汰の記憶にも鮮明に残っている。あのメモに残されていた「離れたくない」という言葉で陽汰自身もはっきり自覚したのだ。
晴斗が好きで、離れたくないと。
あれからまだ一年も経っていない。だけど、いろんなことが変わった。恋人になって、番になって、いろいろあったけど今はこんなにもたくさんの家族に囲まれている。
陽汰は腰に回されている晴斗の手に自身の手を重ねた。
「もう離れるなんて絶対言わないよ」
「うん、こんなに可愛い子たちもいるしね」
二人揃って猫たちのほうへ視線を向けると、遊び疲れたのかいつの間にかみんな揃って眠っており、その可愛らしい姿に笑みが浮かんだ。
「よし、この子たちのためにも良い部屋探そう」
「うん、そうしよう」
何軒か候補が決まり、陽汰は気持ちが高まるのを感じながら夕飯を作るべくキッチンへと向かった。
いつも通り料理をしていると突然肩にずしっと重みを感じ、腰をぎゅっと抱き締められる。
「どうした?お腹空いてつまみ食いにでも来たのか?」
「うん。けど、食べたいのは陽汰のこと」
「えっ、お前何言って…ッ!」
腰を抱き締めていた晴斗の手が陽汰の服の中へと入り込み、その手は迷うことなく胸の突起へと触れた。指先でくりくりと弄られ、ぴくりと身体が跳ね上がってしまう。
「猫たちが産まれてからずっとヤってなかったじゃん…そろそろ我慢の限界なんだけど」
「だからって今っ…ご飯作ってるし、あの子たちも見てる…」
視線の先にはじゃれあう子猫たちとそれを見守るこむぎの姿。
陽汰と晴斗がここでヤったとしても猫たちは気にしないかもしれないが、陽汰としては絶対に無理だ。
本当にこのまま続けるつもりなのかと首を横に小さく振ると意外にも彼の手は素直に服の中から出て行った。
「うん、だから後でね」
「……」
中途半端に乳首を弄られ、その場所はじんじんと熱を帯びている。それだけでなく身体全体も疼いてきてしまい、なんとか料理を作り終えたものの夕飯中も疼きは消えてはくれなかった。
それどころか時間が経てば経つほどに我慢できなくなってしまい、猫たちが眠り始めた瞬間、陽汰は晴斗を自分の部屋へと引っ張ってベッドへ彼を押し倒した。そして躊躇うことなくその上へと跨り、下着の中でぬるつく場所を晴斗の硬くなった場所に擦り付けていく。
「随分積極的だね?」
「ッ…お前が中途半端なところで止めたからだろ…」
「止めろって言ったのは陽汰だよ?」
「…うるさい」
揶揄いの言葉を塞ぐように陽汰は晴斗の唇に自身の唇を重ねた。互いの熱く濡れた舌が絡み合い、身体が一気に熱くなっていく。
口付けを交わしながら晴斗の手が陽汰のスウェットパンツを下着ごと下へとずらし、後孔をそっと押すとそこはすでに蜜を垂れ流していた。
「は、っ…陽汰、すごい、もうこんなに濡れてる」
「んっ、い、いちいち言わなくていいっ」
晴斗に言われなくてもそこがすでに濡れていることなんて十分わかっていた。
なんなら夕飯の時から少し危なかったぐらいだ。夕食中も晴斗に抱かれることを想像して濡らしてしまった、なんて彼にバレたらあまりにも恥ずかしい。
陽汰はそれを誤魔化すように身体を起こして晴斗のズボンへと手をかけた。服の上からでもわかっていたが、彼のその場所も興奮を示すように硬く勃ち上がり、先端から透明な液体を溢れさせている。
「晴斗だって、人のこと言えないだろ」
「そりゃ、陽汰のこと考えたら勃っちゃうよ」
さらっと恥ずかしいことを言われ、悪態でもつこうかと思ったが、その言葉は晴斗が陽汰の淡い色をした陰茎に触れたことで遮られてしまった。
くりくりと裏筋を親指で擦られ、ぞくっとした快感が全身へと広がっていく。
「ん、っ…ぁっ…はるっ…んっ」
「ここだけで一回イっとく?」
前の刺激も気持ち良いには気持ち良いのだが、後ろから得られる快感には到底勝てない。陽汰はふるふると首を横に振って腰を僅かに浮かせた。
「まだ、イかない…こっち…」
片手で晴斗の熱い杭を支え、陽汰はその先端に向かって腰を下ろし始めた。ずぷっと彼の亀頭が陽汰の濡れた蕾を拡げていき、久しぶりの感覚に全身がぴくぴくと細かく痙攣する。
「ンッ…陽汰、ゴム、しなくて良いの?」
「い、いいっ…晴斗のが、ほしっ、ひ、ぁっ!」
慎重に腰を下ろしていたが弱い場所をぐりっと押し上げてしまった。
はくはくと唇を上下させながら息を整えようとするが、晴斗の手が陽汰の弱点である尾骨をそっと撫で上げてくる。そこから走る快感に腰ががくがくと震え、一気に彼の陰茎を奥深くまで飲み込んでしまった。
「あ、ぁぁっ!」
「くっ…陽汰の中、あつっ…ちょっとイきそうになった」
「ぅ、あっ…ま、だ…んっ…だめっ」
彼の熱が体内でびくびくと震えているのを感じ、陽汰は拙いながらも腰を上下に動かし始めた。ぐちゅっぐちゅっと濡れた音が結合部から響き、耳からも感度を高められていく。
「陽汰、ちょっとこっち」
「な、に…?」
晴斗に手招きされ、身体を彼のほうへ倒すと服をがばっと脱がされた。
白い肌と夕食前に弄られて赤みを増した突起が空気に晒され、晴斗の指がその場所をゆっくりと這ってくる。
「服着てたら暑いかなって」
そう言いながら彼は親指と人差し指で突起をくいっと引っ張り上げた。
快感が乳首から腰に響き、中に入っている晴斗をぎゅうっと締め付けてしまう。彼はその反応を楽しむようにくいっくいっと乳首を何度も引っ張ってきた。
「は、るとっ、ぁ、や、やぁっ、それっ、やめっ」
「気持ち良いんでしょ?すごい、俺のこと締め付けてくる」
「ちがっ、あ、ぁあっ!」
ぎゅうっと強めに抓られた瞬間、全身ががくがくと震え、陽汰は精液をぴゅっと飛ばしてしまった。
まさか乳首だけでイってしまうとは思わず、少しの間呆然としていると晴斗の両手が腰に触れた。その手付きは陽汰の柔肌を楽しんでいるようであり、何かを企んでいる前兆にも見える。
そして、その予感は見事に的中してしまった。
彼の手が陽汰の腰をしっかりと掴み、少し意地悪な、それでいて楽しそうな笑みを陽汰に向けた。
「陽汰、先にイっちゃったね。俺も動いて良い?」
「ま、まって、イったばっかっ、ひ、あぁっ!」
陽汰の制止の声は聞き入れてもらえず、晴斗は下から思いっきり突き上げてきた。その突き上げは生殖腔を押し上げ、イったばかりで全身が敏感になっている陽汰の身体に強すぎる刺激を与えてくる。
「あっ、ぁあっ、まっ、ゃ、あっ」
目の前がチカチカと明滅し、身体の奥深くから愛液がどぷっと溢れ出した。水音と喘ぎ声が部屋中に響き、繰り返される快感に意識が飛びそうになったが、それまでベッドに横になっていた晴斗が身体を起こして陽汰の耳元へ唇を寄せてきた。
「陽汰の声、こむぎたちに聞こえちゃうかも」
「ひっ、ぁっ、や、だっ、あぁっ!」
声を抑えようと思っても晴斗に奥を突かれるとどうしても声が漏れてしまう。手で口を塞ごうとしたが、それよりも早く晴斗が陽汰のことをベッドへと押し倒し、両手を頭上で一纏めにしてきた。
陽汰の力では到底晴斗の拘束から逃れられるわけもなく、少し泣きそうになりながら彼のことを見上げる。
「泣かないで、陽汰。声我慢できないなら俺が塞いであげるから」
「ん、んぅっ…ぁっ、ぅっ…んっ」
熱い舌が陽汰の舌を絡め取った。確かに声は抑えられてはいるが、快感が先ほどよりも大きくなっていく。
全身の細かな痙攣が止まらなくなり、今イっているのかどうなのか、陽汰にはもうよくわからなくなっていた。
そして、それをさらに大きくするように晴斗が生殖腔を強く突き上げた。その一突きは生殖腔の入口を拡げ、先端がぐぽっと中へと入りこんでくる。
「んんーッ!」
頭が真っ白になり、全身に電流が駆け巡った。生理的な涙がぼろっと目尻から零れ落ち、拘束された手は縋るものを求めるように開いたり閉じたりを繰り返している。
「は、っ、はぁっ…陽汰…奥まで入ったよ」
「はるっ、ぁ、あっ、おくっ、いっぱぃっ…」
「うん、もっといっぱいにしてあげる」
「ひっ、ぁあっ!」
ずちゅんっと強く突き上げられ、再び絶頂感に襲われる。突き上げは一回では止まらず、何度も生殖腔を突き上げてきた。
その動きは徐々に速さを増し、彼も限界が近いことを示している。熱くうねる中がきつく怒張に絡みつくと彼は小さく呻き声を漏らした。
「くっ、陽汰っ、出すよっ」
「ぅ、っ、んっ、あ、ぁあっ!」
生殖腔に入り込んだ陰茎の先端からびゅくびゅくっと大量の精液が中へと注ぎ込まれていく。
彼の精液で満たされることに脳がぼんやりとしていたが、少ししてから何かがいつもとは違うことに気付いた。
「あ、なんれっ、とまらなっ」
「ごめん、陽汰っ、もう少しこのままでいて」
「ひ、ぁっ、おなかっ、こわれちゃっ、んぅっ!?」
陽汰のことを逃がさないとでもいうように唇を塞がれ、きつく抱き締められる。その間も彼の射精は止まらず、どのくらいの時間そうしていたのかはわからないが、全てを注ぎ終わった頃には陽汰のお腹はぽこっと膨らんでしまっていた。
「陽汰…大丈夫?」
「……だい、じょばない…あるふぁ、こわい…」
「でも陽汰のここは俺の全部受け止めてくれたよ?」
「…ばか」
ぷいっと横を向くと耳に彼の唇が触れた。柔く噛まれる擽ったさに晴斗のほうへ視線を戻すと今度は唇同士が触れ合う。
その口付けはとても優しく、陽汰の身体だけでなく心も満たしていくものだ。
しばらくの間お互いの唇の感触を楽しんでいたが、陽汰は未だに体内に埋まっている晴斗のモノがずくんっと脈打ったような気がしてゆっくりと唇を離して晴斗の瞳を見つめた。
「…もう、むりだよ」
「ははっ、バレた?」
「すぐわかったよ。けど今日はもうダメ」
何度もイったことと彼の長い射精を受け入れた身体はすでに限界を訴えている。
瞼を開けていることができなくなり、晴斗と胸に顔を埋めると彼は再び大きくなりかけていた陰茎をずちゅっと僅かに動かした。
「ん、ぅっ…はるっ…も、やぁ…」
「うん、抜くだけだよ」
その言葉通りに晴斗は陰茎を引き抜いていったが、それと同時に中に大量に出された精液も一緒に溢れ出てきてしまう。
早く拭かなければ、と思ってはいるものの瞼と身体が鉛のように重く、声を出すことさえ徐々に難しくなってくる。
「…む、り…ねむい…」
「ん、寝て良いよ。綺麗にしておくから。おやすみ、陽汰」
「…ん……」
おやすみ、と言ったつもりであったが、それは声にならず、陽汰はそのまま眠りへと落ちていってしまった。
ガチャッ
「んー…」
深夜、何かの物音がしたような気がして陽汰の意識が僅かに浮上した。だが、晴斗に抱き締められている温もりを感じるだけで他におかしなところは何もない。
気のせいか……。
晴斗の落ち着く匂いを胸いっぱいに吸い込み、陽汰は再び夢の中へと落ちていった。
「……んんっ…重っ…」
ずしっとした重みを布団の上に感じる。最初は晴斗の腕でも乗っているのかと思ったが、その重みは何ヶ所かに点在しており、身体を思うように動かすことができない。
重い瞼をなんとか開け、布団の上へと視線を向けるとそこには――。
「ぇっ!?」
思わずでかい声をあげてしまいそうになり、慌てて自分の口を手のひらで覆い隠した。幸いにも陽汰の声はそこまで大きくなかったため視線の先にあるものたちは気持ち良さそうにすやすやと眠り続けている。
「こむぎたち…どうやって…」
布団の上、そこにはこむぎと子猫たちが陽汰と晴斗を囲むようにして眠っていたのだ。
昨夜は間違いなく部屋の扉を閉めていたはず。しかし、扉のほうへと視線を向けると昨夜閉めたはずの扉は大きく開いていた。その開き方に、深夜に聞いた物音をふと思い出す。
まさかこむぎがジャンプして開けた…?
いつの間にそんなことできるようになったんだ…そう思いながらも家族全員が同じ布団で寝ている光景に笑みが浮かび上がってくる。
「晴斗」
トントンと指先で晴斗のことを軽く叩き、猫たちを起こさないように唇に指を当ててから布団の上を指差す。
「静かに、布団の上見て」
言われた通りにそちらを見た晴斗は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに笑みを浮かべた。
カーテンの隙間から差し込む暖かな朝日が陽汰と晴斗の笑顔に降り注ぎ、その光は陽汰のすぐ傍に寝ていたこむぎのことも照らした。
「んにゃぁ」
大きなあくびをしたこむぎはまだ寝ぼけている様子を残しながらも起き上がり、陽汰の身体へとその身を擦り寄せてくる。続けて晴斗にも挨拶をするように彼の顔に額を擦り付けた。そして、遠慮することなく二人の間を歩き、陽汰のお腹の辺りで再び丸まって寝始めてしまった。
「こむぎ、陽汰に甘えてるね。今は子猫たちが寝てるからお母さん業はお休みってことかな?」
「ふふっ、そうかも。ちょっと重いけど」
すやすやと眠るこむぎと、周りで眠る子猫たちを見てから陽汰は晴斗のほうへと視線を向け、穏やかな笑みを浮かべた。
朝日の中で微笑む陽汰の目元には少しだけ涙が滲んでおり、晴斗は指先で優しくそれを拭った。
晴斗、こむぎ、子猫たち。陽汰にとってかけがえのないものがここにはある――
「晴斗、家族って良いね」
第二部 完
【あとがき】
ここまで読んで頂き本当にありがとうございました!
陽汰と晴斗の話はここで一旦完結となりますが、番外編として陽汰の両親(蓮×柚希)の若かりし頃の話を掲載します。
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