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番外編 5章 Y.T.

 暖房の効いた大学の教室内。講義の終わりを告げる教授の言葉が終わると共に蓮は隣に座って講義を受けていた柚希に話しかけた。 「柚希、今日バイト入れてないよな?」 「ん?入れてなかったはずだけど、なんかあったっけ?」 「お前な……今日が何の日か忘れたか?誕生日だろ」 「あ……」  気まずげに蓮のほうを見ると彼は少し呆れながらも柚希の髪をくしゃっと撫でた。  12月22日、今日は大学に入ってから初めての柚希の誕生日。そして、付き合ってから初めて二人で迎える誕生日だ。 「また去年みたいになるところだったな」 「うっ……ごめんって……」  昨年の誕生日、付き合って初めての柚希の誕生日だからと蓮は二人で祝う気満々でいた。しかし、柚希自身が自分の誕生日をすっかり忘れており、その日に限って高校生でもできる割のいい単発バイトを入れてしまったのだ。  更に運の悪いことに大雪によって電車が止まり、家に着いたのは翌朝になるというなんとも悲惨な誕生日だった。 「今日はもう俺から離れるなよ。お前一人にしてたらまた変なことに巻き込まれそうだし」 「変なことって……けど、わかったよ」 「よろしい。じゃあケーキ買って帰ろうか」  こくりと頷き、ふと周りを見ると講義後の教室に残っていた何人かの生徒たちが柚希と蓮のほうをチラチラと見ながら話をしているのが目に入った。  無視しようかとも思ったがそのうちの一人と目が合ってしまい、柚希は一瞬だけ考えたあと彼に向かってニコリと笑みを浮かべた。すると、その生徒は顔を真っ赤にして隣の生徒の肩をバンバンと叩き、興奮を抑えきれぬといった様子で顔を覆い隠している。 「柚希、笑顔の振りまき禁止」 「減るもんじゃないし良いでしょ」 「はぁ……これでまた柚希ファンが増えちまうな。俺の気も知らないで」 「その言葉そっくりそのまま返すよ。ほら、あの子たち蓮のことずっと見てる」  扉のほうへ視線を向けるとそこにいたのは他の教室からわざわざ蓮のことを見に来た子たちだ。手紙のようなものを手に持っているが、蓮の隣にいる柚希を見た瞬間、彼女たちは慌ててそれを後ろに隠し、先程の生徒と同じように顔を真っ赤にしている。 「お互い高校時代と変わらないな」 「そうだね」  二人で苦笑いを浮かべながら講義で使ったものをまとめ、教室から出ると冬の冷たい風が頬を撫でた。  今ではすっかり慣れた大学構内。二人で肩を並べながら歩いている時、柚希は度々思うことがあった。  大学進学、諦めなくて良かったと。  高校の屋上で蓮に告白されたあと、柚希は大学に進学する決意を固めた。そして、蓮と同じ難関大学を受験し、見事二人揃って合格。今では奨学金を借りながらバイトと勉強に励む毎日だ。 「今日やけに冷えるな」 「雪降るかもって天気予報で言ってたよ。それなのに蓮はなんでそんなに薄着なの?」 「いや、朝はそんな寒くなかったからさ」 「風邪引いたらどうするの。しょうがないなぁ」  柚希は自身の首に巻いてあったマフラーを取り、少し背伸びをして蓮の首へとそれを巻き付けた。  自分のマフラーが蓮の首にあるのを見るとなんとなく恥ずかしい気もするが、こういう貸し借りもカップルっぽいなと少し嬉しくも感じる。 「お前は寒くないのか?」 「蓮と違って結構厚着してきたからね。ほら、服も首まであるし」  今日の柚希のスタイルはアイスグレーのロングコート、そしてタートルネックでしっかりと首まで防寒している。  対する蓮は黒のロングコートを羽織ってはいるものの、その中に着ているものはこの時期にしては薄そうに見えるロングTシャツだ。きっと柚希がこのタイプの服を着ていたら華奢に見えてしまうだろうが、蓮が着れば綺麗に付いた胸筋を強調することになる。  高校時代よりも更に大人っぽくなった蓮の隣に立っていると自分はまだまだ子供っぽいな、と思ってしまうが、大学一お似合いカップルと噂されているくらいだから、年相応には見えているのだろう。少なくとも兄弟や親子といった見られ方はしていないということには内心ホッとしている。 「あ、本当に降ってきたね」 「おぉ、今年初雪だな。また電車止まったりして」 「……蓮のいじわる」 「冗談だって。けど、本当に止まったら大変だし、早く帰って誕生日祝いしよう」  ちらちらと白い雪が降る中、蓮が左手を柚希に差し出した。その手を握り返すとすぐさま蓮のコートのポケットの中へと連れ込まれ、彼との距離がぐっと縮まる。 「防寒完璧なはずなのに手袋だけしてないのは俺とこうしたかったから、とかだったりする?」 「……」  じわじわと耳の先が熱くなっていくのを感じ、柚希はぷいっと顔を背けた。しかし、ポケットの中で握られた手は蓮のことをしっかりと握り締めており、二人の手が次第に温かくなっていく。  白い雪と柚希の白い肌、その中で赤くなった耳はまるでショートケーキの苺のようだ。蓮はそんなことを思いながらポケットの中で手を繋いだまま二人は柚希の家へと向かった。  ◆ 「ふぅ、ごちそうさま。すごい美味しかった。また料理の腕上がったんじゃない?」 「今日のは特別だ。この日のために何回練習したと思ってる?」 「蓮のことだから一回練習すれば十分そう」 「お前なぁ……」  くすくすと笑っていると蓮もつられるように笑みを浮かべた。  蓮の手料理と帰り道で買ったケーキ。それだけで柚希は今までの誕生日の中でも今日が一番楽しく豪華であるように感じた。  昔、父親と住んでいた頃も祝ってもらいはしていたが、記憶にあるのはどれも残業で遅くなった父親が申し訳なさそうにプレゼントを渡してきた姿だ。  ここ数年に関しては柚希自身が忘れるほどに誕生日の存在というものは薄くなっていた。そのせいで昨年の誕生日を完全に忘れてバイトを入れてしまうという失態をしてしまったのだが。  最初、今年の誕生日はどこかレストランにでも行こうかと蓮が言ってくれたが、柚希自らが誕生日プレゼントとして蓮の手作り料理を所望した。こうして二人きりでゆっくりと過ごすほうが何よりのプレゼントだったから。これだけでも十分すぎるくらいだ。 「蓮、ありがとう。今までで一番楽しい誕生日になったよ」 「まだ終わりじゃないぞ。はい、これ」 「えっ」  差し出されたのは綺麗に包装された箱。どう見てもプレゼントなのだが、てっきり手料理が誕生日プレゼントだと思っていた柚希は少しの間その箱を見つめたまま固まってしまう。すると、蓮がフッと笑って柚希にその箱を握らせた。 「見てるだけじゃ開かないって。ほら、開けてみて」 「う、ん……」  慎重にリボンを解き、箱を開けると中に入っていたのは一本の万年筆。黒く輝くボディには金色の刻印がしてある。  その刻印は柚希のイニシャルなのかと思ったのだが、白川柚希なら「Y.S.」になるはず。しかし、書かれているのは「Y.T.」だ。  T……東条……東条柚希……。 「っ……!」  気付いた瞬間、火がついたかのように顔が一気に熱くなっていく。心臓がバクバクと音を鳴らし、その文字から目が離せなくなってしまう。  まさか蓮がこんなところにこんな仕掛けをしてくるなんて。  その場で顔を赤くしたまま固まってしまった柚希を見て、蓮は何事も起こっていないかのようにいつも通りに柚希の頭を撫でた。 「感動して固まっちゃった?」 「な、んで……Y.T.なの……」 「万年筆って長く使えるだろ。柚希にはこの先もずっとこいつを使ってほしい。でもそうなると途中で苗字が変わる可能性が高い。だから予めY.T.にしとこうかなって。どう?名案じゃない?」  結婚を前提に付き合ってほしい、それは告白された時に言われた言葉だ。  今まで漠然と大学を卒業したら蓮と結婚するんだと思っていたが、こうして苗字が彼と同じになるんだということが形になるとあの告白の言葉が現実味を帯びてくる。 「柚希?」 「……蓮は本当ずるいよ」 「ははっ、お前を驚かせるのが好きだからな。柚希、こっち来て」  視線を彼のほうへ向けると膝の上をぽんぽんと叩いている。  いつもなら少し躊躇してしまうが、柚希は万年筆をテーブルの上に慎重に置いてから少し照れながらも彼の膝の上へと跨った。  彼の大きな両手が柚希のほんのり赤くなった両頬を包み込み、親指で優しく撫でてくる。 「誕生日おめでとう、柚希。生まれてきて、俺と出会ってくれてありがとう」 「ん……僕も蓮と会えて良かった……ありがとう、蓮」  お互いに顔を近付け、そっと唇を重ね合わせる。柔らかく温かな唇は一度触れただけでは物足りず、軽いキスを繰り返しながら薄く瞼を開けると蓮の視線と絡み合った。その瞳は冷静なように見えながらも獣のような熱さも秘めている。  発情期など関係なく柚希を欲している、そんな瞳だ。 「柚希、いい?」 「んっ……」  こくっと頷くと蓮は軽々と柚希の身体を抱き上げた。すぐ隣の寝室へと入り、とさっとベッドの上へとその身を下ろされる。  発情期以外での行為は未だに緊張感や恥じらいが抜けきらず、無意識に力が入ってしまう。部屋の電気を消し、ベッドサイドの小さなライトを点けた蓮が覆いかぶさってくる時は心臓が破裂してしまうのではないかと思うほどだ。  その緊張を解すように蓮は毎回柚希にたくさんキスをしてくれる。額、目尻、唇、喉仏、彼の柔らかい唇に触れられると少しのくすぐったさも相まって身体に入っていた力も抜けていき、唇の隙間からは熱い吐息が零れ落ちていく。 「れ、ん……っ…ひ、ぁっ……!」  彼の手が服の裾から中へと入り込み、ぷくりと膨れた胸の突起へと触れた。二本の指で挟み込まれてくりくりと動かされるとその場所は芯を持ち、電気を流されたかのように快感が広がっていく。  甲高い声が上がってしまいそうになり慌てて手の甲を口に当てるが、その手は蓮によって外されてしまった。 「声、聞かせて」  唇を噛んで首を小さく横にふるふると振るが、強めに乳首を摘まれた瞬間、柚希の抵抗なんてほぼ無いに等しく、高めの声が零れ落ちた。それと同時に後孔がじわっと濡れ、陰茎も布を強く押し上げていく。 「ゃ、あっ……なんかっ、へんっ……」 「ん?」  いつもならば胸への刺激だけでここまで反応を示さないはず。しかし、今日は発情期でもないのに身体の反応がやけに早い気がするのだ。  蓮に掴まれていないほうの手で服の中に入っている彼の腕を掴み、瞳を潤ませながら彼へと訴えかける。 「も、そこ、いい……へん、だから……」 「柚希、今日いつもより感じやすくなってるんじゃないか?」 「ちがっ……そんなことっ……ひぁっ!?」  確認、とでもいうように爪の先で乳首の先端をカリッと引っかかれ、身体が大袈裟に跳ね上がってしまう。  彼の短く切りそろえられた爪が敏感な部分をカリカリと繰り返し引っ掻き、あまりの快感に目には生理的な涙が浮かび上がった。 「れんっ、や、ぁ……ゃだぁっ」 「フッ……悪い、お前があまりにも可愛いからちょっと意地悪したくなった」 「……ばか蓮」  軽く頬を膨らませると笑みを浮かべた彼は服の中から手を抜き、目尻にキスを落とした。 「バカな俺に今度はこっちを可愛がらせてくれ」 「んぅっ……」  大きな手がズボンの上から硬くなった部分をゆっくりと撫で上げ、その手は焦らすような動きでズボンのボタンを外し、ファスナーを下ろした。  そのジジッ……という音がやけに大きく聞こえ、再び心臓の音がバクバクと早まっていく。  淡い色の陰茎とすでに十分に濡れた後孔が晒され、ひくつくその場所から溢れる蜜を蓮は指に纏わせた。ぬるつく指が蕾の縁をなぞるとぞくぞくとした快感が駆け巡り、身体の奥深くからじゅくっと更に多くの蜜が溢れ出していく。 「柚希、今日嬉しかった?」 「へ?」  突然の質問に思わず間抜けな声が出てしまった。その声に蓮も笑みを浮かべたが、特に突っ込んでくることはなく、その質問もからかいの意味で聞いたのではないようだ。 「嬉し、かったよ……今までで一番の誕生日になった、と思う……」 「そっか。じゃあ、柚希がいつもより感じやすいのはそれが理由かも」 「?」 「お前は感情が身体の反応に出やすいからな。自分で気付いてなかった?」  そんなこと今まで一度も意識したことなんてなかった。そもそも蓮と行為に及ぶ時はいつもいっぱいいっぱいで自分の状態に気を配っていられる余裕なんてない。  それなのに、蓮には柚希の身体の反応でその時の感情がわかっていたなんて。 「……ばか」 「俺は嬉しいよ、柚希の反応がわかりやすいの。言葉にできない分、身体が教えてくれてるんだって思えるし」 「うぅっ……もう言わなくて良いっ……!」  きっと今までにないくらい顔が真っ赤になってしまっている。ライトの灯りがオレンジ色だったからそれは誤魔化せているだろうが、そうでなければ今すぐにでも布団を頭から被っていたところだ。  ぷいっと横を向くと蓮の微かな笑い声が聞こえ、その声はすぐさま柚希の耳元に近付いた。 「柚希、ごめんって、優しくするから……指、入れるよ」 「んっ……っ……」  くちゅっと濡れた音が鳴り、彼の骨ばった指が中へと入ってくる。狭い隙間をこじ開けるように二本の指が埋められていくと少しの苦しさはあったものの、彼に触れられる場所から熱が一気に広がっていくような気もした。  やはりいつもよりも感じやすくなってしまっているのか、まだ大して動かされてもいないのに愛液が指の隙間から溢れて双丘の間を流れていく感覚がする。  ぬるっとしたものが広がり、くちゅっくちゅっと濡れた音が大きくなっていく中、ある一点を押し上げられた瞬間、目の前に強く白い光が瞬いた。 「あぁっ!」  お腹側の弱い部分を二本の指でぐりっぐりっと何度も押され、抑えようと思っても口からは甲高い声が上がってしまう。柚希は蓮の腕を掴んで必死に首を横にふるふると振った。 「れ、んっ、ぁっ、ゃ、あっ」  愛液も陰茎からの先走り液もどくどくと止まらなくなり、瞳にも熱いものが浮かび上がってくる。  軽く唇を嚙みながら蓮のことを見つめると彼は小さく笑みを浮かべて柚希の唇にちゅっとキスを落とし、空いているほうの手で優しく髪を撫でた。 「その顔、反則。可愛すぎ」 「そん、なことっ、なっ…んっ…ゃ、あっ…」 「イきそ?」 「そ、だけどっ……や、だ……」  じわりと浮かんだ生理的な涙が目尻からツーっとこめかみのほうへと流れ落ちていく。  挿入前にイかされるというのは何度かあったが、今日はどうしてもここでイくのは耐えたかった。  今日は特別な日だから。 「蓮とっ……一緒がいいっ…」 「ッ……柚希、本当ずるいって……抑え効かなくなったらどうするんだ」 「それでも、いいからっ……蓮、きて……」  蓮の首へと腕を回し、柚希のほうから蓮へと口付けをする。唇を少し開けると彼の熱い舌が口内へと滑り込み、柚希の薄い舌を絡め取った。そのまま舌を少し引っ張られると身体がぴくぴくと小さく震え、中に入っている蓮の指をぎゅうっと締め付けてしまう。  その反応にこのまま続けたら柚希が果ててしまうことを感じとったのか、蓮はゆっくりと指を引き抜いた。 「ゴム付けるから、待ってろ」 「んっ……」  手慣れた様子でベッドサイドの引き出しからストックしてあったコンドームを取り出し、蓮は自身の陰茎へとそれを取り付けた。  その間、柚希は蓮の顔だけをじっと見続けていた。というよりも、そこから下に視線を向けられなかったというのが正しい。  蓮のそれはあまりにもでかい。初めて発情期に関係なく性行為をしようとした時、柚希は彼のそれを見てプチパニックになり、涙が止まらなくなってしまった。結果、彼に宥められて性行為を中断してしまったという過去がある。  それ以来、直視したらまた同じことになってしまいそうで、慣れるまでは見ないようにしようということになったのだ。  ライトの薄明りの中でコンドームを取り付けた蓮が柚希の上に再び覆いかぶさり、額にキスをしてから陰茎の先端をぬかるんだ後孔へと押し当てた。 「挿入れるぞ」 「んっ……ぅっ……」  ぐちゅっと音を鳴らし、指とは比べ物にならない大きさのものが蕾を割り開いて中へと押し入ってくる。十分に濡れているとはいえ、サイズも形も柚希のものとは別物のようなそれが入ってくるのはやはり苦しさを覚える。  呼吸をするのを忘れてしまっていると蓮が腰を進めながらも柚希の顔の至る所に口付けをし、最後に唇同士を重ねてゆっくりと舌を絡めた。 「ふっ…んっ…は、っ…ぁっ…」 「柚希、呼吸忘れるなよ」 「ぅ、んっ…ぁ、んぁっ!」  彼の張り上がった亀頭が柚希の弱い部分をぐりっと押し上げ、ビクッと腰が跳ね上がる。  先ほど指で刺激されていたからなのか少しの刺激でも達してしまいそうになり、蓮の服をぎゅっと掴んでなんとか耐えた。だが、彼の陰茎は更にその奥へと突き進み、トンッと柚希の一番弱い生殖腔へとその先端を押し当ててくる。 「あぁっ!」 「奥までいったな……大丈夫か?」 「ん、ぁっ…だい、じょぶ……んっ…うごいて、いいよっ…」  涙で霞む視界の中、蓮の微笑みが見えたのと同時に彼の腰が引かれ、その剛直が柚希の熱い内壁を擦り上げた。  最初は浅くゆっくりとした抽挿だったが、そのスピードは徐々に深く早くなっていき、生殖腔を叩きつけられる度に意識が飛びそうなほどの快感に襲われる。 「ぁ、あっ、んっ、れんっ、れっ、ぁあっ」 「柚希っ……お前の中、気持ち良すぎ……」 「ん、ぁっ、きもちぃっ、ぁあっ、れんっ、も、だめっ」 「いいよ、イって」  柚希は一緒にイきたいからと首をふるふると横に振った。だが、その気持ちとは裏腹に身体は本当にもう限界だった。 「あ、あぁぁっ!」  ビクンッと大きく身体が跳ね、続いてガクガクと激しく腰が震える。その絶頂感は今まで感じた何よりも強い。だが、すぐにいつもとは違うことに気が付いた。 「え、あっ、なんっ、あ、あぁっ!」  射精していない。そのうえ絶頂感が止まらないのだ。ずっとイきっぱなしになってしまったようで気持ち良いのが終わらず、蓮のことをぎゅうぎゅうと締め付ける。 「クッ……やばっ……」 「ん、あぁっ…!」  ドクンッと彼の陰茎が柚希の中で脈打ち、コンドーム越しに大量の精液がびゅくびゅくと放たれる。その間も柚希の絶頂の波は止まらず、頭が真っ白になりながらも蓮のことを締め付け続けた。 「ぅ…ぁっ…は、ぅ…っ…」 「っ…はっ…柚希…」 「んっ…ぅっ…」  ひくんっひくんっと身体が震え、半開きになった唇からは唾液が零れ落ちそうになっている。ぼやけた視界の中で蓮のことを見ると彼は微かに笑みを浮かべたあと柚希に口付けをした。  熱い舌が口内に入り込み、ゆっくりと歯列や口蓋をその舌先でなぞっていく。たったそれだけの動きでも柚希は甘くイってしまい、蓮の陰茎を刺激してしまった。 「フッ、まだシたいのか?」  ぐちゅっと軽く腰を揺らされ、柚希は涙を浮かべながらふるふると首を横に振った。  今日はやっぱり身体がおかしい。これ以上ヤったら本当にどうにかなってしまいそうな気がする。 「だ、め……蓮の……おっきぃから……も、だめ……」 「……」 「ひ、ぁっ…!?なん、で……だめって……」  明らかに体内でドクンッと脈打った彼のモノに眉尻を下げながら困惑の声を上げると、彼は小さくため息を吐きながら柚希を抱き締めた。 「さっきのは柚希が悪い。いつからそんな煽り上手になったんだ。けど、今日はお前の誕生日だし、無理はさせないよ」  その言葉通り彼は柚希の中に埋まっていたものをずるっと引き抜き、コンドームを捨ててから再びベッドに戻って柚希のことを抱き締めた。  子どもをあやすように背中をぽんぽんと優しく叩かれ、彼のトクトクと鳴る心臓の音が心地よく響いてくる。  いつもならばこうしていれば身体が落ち着いてくるのだが、今日に関しては快感がまだ残っており、何処かずっとふわふわしているような感じがした。 「大丈夫か?」 「……からだ、へん」 「ははっ、中イキは気持ち良いの続くって言うしな……落ち着くまでこうしてよう。寝ちゃっても良いから」 「ん……」  彼の体温と香りに包まれながら柚希はそっと目を閉じた。  ◆ 「ん、ぅっ……」  真っ暗な部屋の中、カチッカチッと時計の音だけが鳴っている。  柚希は数度瞬きをしてから身体を動かそうとしたが、後ろからしっかりと蓮に抱き締められており、諦めてフッと力を抜いた。しかし、その動きで蓮も目を覚ましてしまったようだ。 「んっ……柚希?」 「ごめん……起こしちゃった」 「いいよ、大丈夫だから気にするな。今、何時だ……23時30分か、まだお前の誕生日だな」 「え……それ、僕が産まれた時間……」  柚希が産まれた時間、そして母が亡くなった時間でもある。  当時のことは詳しくは教えてもらっていないが、母は自分の命と引き換えに柚希を産むことを選んだと、父にはそう聞いている。  そこから父は男手一つで柚希を育ててくれた。しかし、小学校5年生の時に新しいパートナーができたと言われ、その人と結婚を考えていると打ち明けられた。その頃から父が家に帰ってくる時間も遅くなり、いないのが当たり前になっていった。  寂しくなかったと言ったら嘘になる。だけど、父の幸せを考えたらもっと構ってほしい、なんて言えなかった。 「自分の産まれた時間に目が覚めるってお前すごいな……ってどうかしたか?」 「……ううん、なんでもないよ。あのさ……蓮は……子ども、好き?」 「ん?どうしたんだ急に」 「……もし、僕たちの間にいつか子どもができたら……蓮は嬉しいのかなって」  柚希がこういった類の話をするのは珍しかった。寧ろ初めてなのではないかと思う。彼はいつも何処か将来のことを話すのを少し怖がっているようにも思えたから。  少し元気がないのが気になりつつも蓮はいつもと変わらぬ調子で柚希の髪に顔を埋めながら答えた。 「嬉しいに決まってるだろ。俺と柚希の子だぞ?柚希に似て可愛い子になるか、俺に似てイケメンになるかの二択だ」 「ぷっ……自分でイケメンとか言う?」 「イケメンだろ?」 「まぁ、間違ってはないね」  腕の中でくすくすと笑いを零す柚希に内心ホッとしたが、その笑いはすぐに止まってしまった。  静かな呼吸音がゆっくりと繰り返され、それに合わせるように肩が小さく上下している。外では雪が降り続いているようで人の声や車の音も何も聞こえてこない。あまりの静けさに寝てしまったのかと思った頃、彼が消え入りそうな声でぽつりと零した。 「僕ね、お母さんの顔、知らないんだ……僕を産んだときに…ね……小さい頃はお父さんがよく遊んでくれてたんだけど、新しく良い人見つけてさ……お父さんは一緒に住もうって言ってくれたよ。けど、断っちゃった……こんな大きな息子がいたら、新しいパートナーも気まずいだろうし……それで、二人の間には可愛い双子が産まれたんだ。僕は一回しか会ったことないけど……」  話し声には僅かに震えが混じっており、蓮は柚希のことを抱き締める力を少しだけ強めた。 「……僕に……子どもができたら、たくさん抱きしめて、たくさん笑って……怒ることもちゃんとできる……そんな、親になりたいなって……急に思っちゃって……ごめんっ……変な話、して……」 「変な話じゃない。柚希ならなれるよ。柚希だけじゃなくて、俺も一緒に」 「う、んっ……ありがとっ……」  肩を震わせる柚希の身体をそっと蓮のほうへと向けさせると、彼の瞳には涙がいっぱいに溜まり、今にも零れ落ちそうになっていた。  柚希が生まれた日。本当なら祝福に満ち溢れた日になるはずだった。だけど、生まれながらにして両親を不幸にしてしまった。  そんな彼が、蓮と一緒に親になる未来を夢見ている。柚希にとってそれは恐怖のほうが大きいかもしれない。それでも、彼は一緒にそうなりたいと、言ってくれた。  蓮は自身の胸に柚希の顔を埋めさせ、じわりと服に涙が滲むのを感じながら彼が泣き止むまでその背中を優しく撫で続けた。

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