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第20話※

「ハロルド……」と呼ぶ。 その名は甘く舌に残る。 身体はふるえてしまっていた。くすぐったいのとは違う。痛くも、苦しくもない。 ただ、熱い。ゆっくりと、肌が焼かれていくような、甘い熱だった。 ハロルドのゴツゴツとした指で解されていく。意地悪なのか丁寧なのかわからないくらいにもう、フィンは身体の後ろをほぐされていく。 指を孔の奥に入れながら、片手で抱き寄せ、耳のうしろ、喉のきわ、鎖骨…ひとすじずつ、唇が這っていく。触れられるたびに、呼吸がうまくできなくなる。 息を吸いたいのに、吸うことを忘れてしまう。体温だけが上がっていって、頭の芯まで霞んでいく。 「はぁぁ……っ、ハロルド…ああ…んんっ、」 自分が自分の身体じゃないみたいだ。でも、確かに感じている。初めて受け入れた男の指に、身体ごと全て持っていかれそうである。 「なんて……顔するんだよ…ああ…フィン、全部欲しい。君の全て、全部欲しい」 どくんどくんとした熱い塊がフィンの冷たい肌に当たっている。 「……好きだ…フィン…好きで…たまんない」 「…ハロルド…んんっっ、はぁぁあっ、や」 ぐっと指を曲げられ、奥深くをくすぐる。フィンは思わず背中を仰け反らせ、高い声を上げてしまう。 身体の中心から噴き出すような思いをさせられる。タラタラと流れ出してしまうのを止められない。 やめて欲しくて、もっとして欲しくて…だけどハロルドは止めてくれない。ぐちゅぐちゅと音を立てて、奥深くをあの指で弄っている。 「いつまでも…優しくしないで…当たってるそれ…入れるんでしょ」 熱く硬いハロルドの滾りに手を伸ばし、フィンは下から上に撫でながら言う。硬く育つ、太いそれは、更に中心に熱が籠っていた。 「ああ…これか…」 そう言いながら、ハロルドはフィンの中からゆっくりと指を抜き取る。濡れた熱が名残のようにまとわりつくまま、すでに固く滾った自身をハロルドは、二度三度強く扱いた。 フィンの腰を片手で支えながら、ハロルドがゆっくりと自分のそれを当ててくる。熱を帯びた先端が触れた瞬間、息が詰まった。 身体が、自然と受け入れる準備をしていた。ぬるりとした感触が、柔らかな内部を押し広げていく。 「……はっ。ああっ…ん、んんっ…」 一度、呼吸が止まり、次の瞬間には喉の奥でかすかな声が漏れた。 ぐちゅ、と湿った音が響いた。 ゆっくり、深く…滾るほど硬く熱を帯びたそれが、内奥へと沈んでくる。どくん、と脈を打つたび、内側に波のような鼓動が伝わってきた。 「もう少し…ゆっくりとな…」 ハロルドの声が耳元で聞こえる。 全部が入りきるころには、フィンの背中がほんのり震えていた。痛みではない。満ちていく感覚。満たされていく感覚。 「……っ、ふ、かい……」 小さくこぼれた言葉に、ハロルドが低く息をついた。 「大丈夫か……」 動かないまま、ふたりの体温が、深く、ゆっくりと重なっていく。 フィンはまぶたを伏せたまま、指先でハロルドの腰にそっと触れた。触れるだけの力しかないのに、その手が合図になる。 「……もっと、おく…まで、来て」 「ぜんぶ欲しい。あなたで、いっぱいにして……ちゃんと甘やかしてよ…」 熱を含んだ声。 耳元で囁くように、それでもはっきりとした意志で告げられたその言葉に、ハロルドの呼吸が一段深くなる。 「……そんなこと言ったら、止まれなくなる」 ハロルドに足を撫でられる。グチュっと熱い液が滴る音が聞こえる。 「いいんだな? ちゃんと覚悟して、甘えてるんだな」 低く、喉の奥で転がすような声。けれどその瞳は、きちんとフィンを見つめている。 彼が心から望んでいることを、決して見逃さないように、見つめ返した。 ハロルドの手が、フィンの腰をそっと抱えた。その手のひらは、どこまでも大きくて、包み込むように優しい。 「……いくぞ」 低く落とされた声は、どこか震えていて、けれど揺るぎない。フィンの瞳を見つめたまま、ゆっくりと腰を深く進め始めた。 ゆっくりと。 確かめるように、少しずつ、深く。 フィンの身体がわずかにこわばると、ハロルドはすぐに気づいて動きを止めた。背に手を添え、額をそっと重ねる。 「……大丈夫か」 「だ…いじょ…ぶ…んんっ、動いて…」 息を潜めるように、フィンが頷く。 その温もりを合図に、ハロルドはさらに深く、慎重に進む。 「無理はしない。だけど…全部、繋がりたい」 熱が、重なる。呼吸が、絡まる。フィンの奥へとゆっくり沈み込むたび、二人の距離が確かに、確かに溶け合っていく。 「……フィン、好きだ。全部、愛おしい」 囁かれた声に、フィンの瞳が潤む。その奥で、甘く甘く受け入れる覚悟が、静かに灯っていた。 ハロルドの腰が、ゆっくりと、けれど確実に熱を帯びて動き出す。深く沈んでは、名残惜しげに引いていく。一度ごとに大胆さを増しながらも、どこまでも慎重で、優しさを孕んだ熱が伝わってくる。 「ん、……っあ……」 フィンの喉から、ひとつ吐息が漏れる。 それを聞いたハロルドの瞳が、ほんのわずかに潤んだ。嬉しさとも、焦がれる想いともつかぬ、切なげな光が宿っている。 「……声、聞かせて…フィンの全部が欲しい。その声も…」 囁くたびに、動きは深まっていく。フィンの身体がそのたび小さく震えて、背をそらすようにハロルドへ近づいていく。 「ふっ……ん、や……あ……」 声が漏れるたびに、ハロルドの手が腰を支え、深く深く、奥まで迎えにくる。グチャグチャという水音が部屋に響いている。 「フィン……全部、俺だけのものだ」 甘く、慈しむような声音に、フィンは熱に浮かされながらも、かすかに睫毛を震わせた。 「……もっと……可愛がってよ……」 吐息を混ぜた声が、掠れるようにこぼれ落ちる。その甘えに、ハロルドは喉の奥で静かに笑った。 「……ああ。じゃあ…もっと深く刻むよ。二度と、忘れられないくらいに」 次第に動きは深く、熱を帯びていく。 肌と肌の間を、熱が通ってゆく。 「……まだ足りないよ。もっと…奥まで、残して。跡が残るくらい、可愛がってくれなきゃ、満足しない…」 わざとらしく甘く、けれど芯に火を灯す声でそう挑発する。 ハロルドはその言葉に喉を鳴らし、熱を帯びた眼差しで囁く。 「……いい子だ。欲しがる君なんて…可愛くてたまらない。俺のものだって、ちゃんと教えてやるよ」 まるで、ふたりの奥に流れるものすべてを、溶かし合うように。 吐息が、混じる。熱が、重なる。理性の境界が、もうわからない。 「……ん、あ……っ、そこ……や……」 ハロルドの動きは、焦らすように甘くて。 けれど、時折ぐっと深く、耐えられないほど強く、激しくなる。 「は、は、ああっ…や、……っっ」 「ああ…気持ちいいな…くっ…」 そのたび、身体の奥がひくりと跳ねて、 フィンの指がシーツを握りしめる。 「やだ、もう……っ、だめ……」 呟く声は、涙まじりの甘えた音になる。けれど、動きは止まらない。まるで、フィンの限界を知っていて、そこへと導くように。 「……だめじゃない。気持ちいいって顔、してる。顔見せろよ…」 囁きながら、ハロルドはフィンの頬にそっと口づけた。額に、耳たぶに、熱を移すように、愛しさを零すように。そして次の瞬間、腰が深く、強く打ち上げられる。 「……フィン、いくとこ、ちゃんと俺に見せて」 耳元にそう囁かれて、恥ずかしさと快感が、限界を押し上げてくる。 「や……やだ、そんな……ん、あ……っ、ああ……!」 背がしなり、声が零れ落ちた。 全身が熱く、細胞のひとつひとつまで甘く痺れる。ふたりの熱が絡まり合い、ひとつの波に飲み込まれていく。 「……フィン、……いきそう、くっ…は、」 「奥に…して…っはぁっ、い…く…っ」 震える声が重なる。息が絡む。熱が、重なり合った境界を溶かしていく。 ハロルドの腕に強く抱きしめられたまま、フィンは甘く震え、そのまま、ふたりは同じ波にのまれていった。 「……っ好きだ……フィン……」 そう囁いたハロルドの声は、涙がにじむほどに熱くて優しい。最後の一押しまで、溺愛そのもののように。深く、深く、すべてを埋めるように沈み込んでいく。

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