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後日譚②:副作用
育ちすぎてしまった作物を、どうにかしようという動きがある。嬉しい悲鳴ではあるが、さすがにこれは放っておけない。
国が動き出し、隣国への出荷も始まった。
すると今度は、なぜかこの国の作物に、付加価値がつきはじめた。
不老不死……は言いすぎだが、美白効果?若返り?そんなコマーシャルがつくようになった。
守素の影響で育ちすぎる作物は、無添加で栄養豊富。
しかも、どうやら本当に体にいいらしいという話が広まり、貿易はうなぎ登り。
国は大喜び。万々歳。
いことずくめ、である。
でも最近、ハロルドには気になることがあった。
「先生~、また一段と綺麗になって〜」
「お肌、つっやつやねぇ〜」
「もう、お人形さんみたい!」
昼間、村のお姉さまたちに囲まれていたフィンを思い出す。
……たしかに最近、フィンが眩しすぎる。
そして今。
ベッドの上でうつ伏せになって本を読んでいるフィンのお尻を、もにゅっと掴みながら、ハロルドは真面目に考えていた。
「ちょっと……なに?じーっと見て」
視線を感じ取ったのか、フィンが眉をひそめて振り返る。
「いや〜……さあ。やっぱ、本当に効果あるんだなって思ってさ」
「なにが? って、ちょっと!どこ触ってんの!」
手元では、ぷるんと張りのある柔らかさを確認中。
うん。
お尻も以前より柔らかく、白く、つやつやしている。これ、確実に美白&弾力アップしてる。間違いない。
「昼間言われてただろ? 『お肌が〜』とか『若返って〜』とか」
「……ああ。うん。最近よく言われる。そんなに変わったかな?って思うけど、たしかに体調はすっごくいいんだよね」
「体調が、いいと……つまり、よろしいと……」
「この村の空気とか、食べ物のおかげじゃない?前は、齧るだけのりんごとか、栄養補助剤で済ませてたけど、今はあなたがちゃんと作ってくれるし」
満面の笑みで言われると、ちょっと照れくさい。
けど………違う。そうじゃない…それだけじゃないと、ハロルドは思っていた。
「……そう、だよな。そうか……」
ごろんと仰向けになり、天井を見つめながら、尻をまだモニモニ継続中。
「なに、なによ……変な間。気になる言い方して。言いたいことあるなら言いなさいよ」
フィンに見上げられ、ハロルドはちょっとだけ躊躇った。
……が、腹を括って、身を起こす。
「えっとな。肌がきれいとか、体調がいいとか……やっぱ守素の影響はあると思うんだ。作物とか、村の空気とか、そりゃあるさ。でも…」
「うん。でも?」
「でも……それだけじゃない、気がしててさ」
「……それだけではない?」
「俺、フィンにさ……こう、直接……注いでるだろ。愛と、守素と……その、いろいろと」
「…は?」
「ほら、俺の身体ってちょっと特殊らしいし。守素にも強くて、回復も早いし、絶倫だし?」
「……はあああ!?」
「いやだから、俺のアレにも守素が含まれてて、それがフィンに直接……的な」
真顔で語るハロルドに、フィンの顔がみるみる赤く染まっていく。
確かに、ふたりは毎晩、愛し合っている。
フィンは何度も、奥深く、たっぷりと、ハロルドに注がれている。
ハロルドに自覚があるんだから、そりゃあ、フィンだってわかっているだろう。
何を注がれているのかと。
「……げぇ……最低……!」
「なんで!? 俺、結構本気なんだけど!?」
「だから最低って言ってんの! 尻触るなっ!」
ぺちっと軽く叩かれるが、ハロルドは気にしない。
「だってさ、最近どんどん美人になってるし。肌も白くなってるし、ツヤもあるし、触り心地も最高だし……やっぱ俺の守素、効いてる…かなぁって? だろ?」
「……うるっさい!バカ! ほんとに、バカ!」
布団をかぶって顔を隠すフィン。
そんな姿がまた愛しい。ハロルドはそっと背中に腕をまわした。
「でもまあ……効果があるってことは、いっぱい注いで損はないな」
「ばか……ほんとに黙ってて……!」
顔を真っ赤にしながら抗議するフィンの体温が、ぎゅっと腕の中で温かくなる。
……やっぱりこの人が一番可愛い。
誰にも渡さない。
俺だけの、甘くて危険な副作用だ。
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