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第21話
促されて、凪はソロソロと顔を上げた。視線の先ではサーミフが少し疲れたように笑っており、彼の側に控えている侍従長が幾つかの箱を手渡していた。それは凪が宝石商で見た箱ばかりで、侍従長が凪を迎えに来る前に代金を支払い品を受け取りに行っていたことを知る。結局凪は不可抗力とはいえ騒ぎを起こしただけになってしまった。
「贋金の件は陛下にもご報告し、国で調べることにした。私も全面的に調査に協力することになるだろう。だが、今は記念式典のために賓客が各国から来ているんだ。彼らに悟られないためにも大騒ぎするのは得策ではないし、贋金の為に式典が台無しになるようなこともあってはならない。だからナギ、お前も普段通りにするんだ。人の口に戸は立てられないからな。どこからか情報が洩れるのは避けたい」
国はひとつの事に注力していては成り立たないし、真っ直ぐさは美徳であろうが、政を司る王族たちは愚直であってはいけない。国を守るためにも密やかに動き、嘘偽りで塗り固め、笑顔で終わらせることも必要なのだ。わかっているからこそ、凪は静かに頷く。
「わかりました」
恭順を示すように膝をついた凪は、床に額をつけるよう深く頭を垂れた。
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