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第23話

「ありがとうございます、ウォルメン閣下。閣下にお越しいただき、これ以上の喜びはございません」  ウォルメン閣下と呼ばれた彼の身分は公爵だ。当然ながら第二王子であるサーミフの方が立場は上だろう。しかし、サーミフはもちろん、ディーディア国王でさえウォルメン閣下を下に見ることは無い。それほどにウォルメン閣下と呼ばれる彼は特別であった。 「今日はヒバリ殿も来てくださったのですね。ディーディアにようこそ」  ウォルメン閣下の後ろで、まるで従者のように控えていた華奢な男にサーミフは笑みを浮かべた。ヒバリと呼ばれた彼は無言で深く会釈をする。王子に対しては失礼な態度であるが、彼は元々あまり口を開かずジッと控えていることが多いのでサーミフもあまり気にすることは無かった。 「数日滞在してくださると聞いております。心ばかりのおもてなしをご用意しておりますので、楽しんでいただければ良いのですが」  記念式典には多くの要人が参加してくれているとはいえ、宮殿の貴賓室に泊まることができるのはごく数人だ。その中でもウォルメン閣下は特別で、侍従長や料理長たちがピリピリと空気を張り詰めさせていたのを凪も覚えている。その様子にウォルメン閣下とはよほど気難しい相手なのだろうかと凪は身構えていたが、予想に反して彼は穏やかに微笑みを浮かべた。

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