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第32話

「ヒバリ殿は閣下が誰よりも信頼しているお方。ヒバリ殿がその目で見たもの、その耳で聞いたものであれば、閣下も他者の介入などを疑う必要が無くなるでしょう。それに、恥ずかしながら私の配下にはこういったことに向いている者はおりません。もしもヒバリ殿が協力してくだされば、情報収集において百人力でしょう」  初めて聞くそれらに、凪は思わず瞬いた。彼にそんな特技があったのかと驚くが、闇の支配者たるウォルメン閣下の側近くにいるには、それくらいできなければならないのかもしれないと思いなおす。 「もちろん、ずっとご滞在いただくのは無理だと理解しています。期限をもうけて、その間はこの国でヒバリ殿にご協力いただきたいのです」  そもそもこの件に関しては悠長に時間などかけていられない。国のためにも早期解決が望ましいのだから、ヒバリを帰すためというよりは、その期限以内に事の真相を暴き、収束に繋げたいとサーミフは言っているのだろう。凪にわかることがウォルメン閣下にわからないはずもなく、彼は考えるように顎に触れた。 「だ、そうだけど。どうする?」  自身は何を考えたのか、それを言葉にすることなくウォルメン閣下はヒバリに視線を向けた。それを受けた彼はどんな顔をしたのだろう。閣下の方へ向き直った彼の表情を見ることはできず、凪はただその黒髪を見つめた。

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