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第56話
各国の賓客が帰国して、ようやく表向きは平穏な日常が戻ってきた。いつものように隙あらば寝ようとするサーミフを起こして身支度を手伝い、主に群がる美女たちを眺める。今日は国王の疲れをとるという名目のもと、王子達も午前中は何も無い時間を与えられているため、美女たちは常に忙しそうなサーミフと一緒に過ごせる絶好の機会だと張り切っているのだ。そんな彼女たちを笑顔であしらっている主の姿をボンヤリと眺めていれば、突然サーミフが凪の方へ視線を向けた。
「ナギ、調べものがあるから図書室に行くぞ。お前も供を」
その言葉に、あぁ、彼女たちから逃げたくなったのか、と凪は胸の内で呟きながら頷く。美女たちは残念そうに顔を悲しみに歪ませ、本当に行ってしまうのかと引き留めているが、それさえもサーミフにとっては煩わしいものでしかないのだろう。ここにいる美女たちは皆、国王や臣下が選んで住まわせている者たちだ。決してサーミフ自身が選んだわけではない。たとえ美しい容姿を持っていても好みでなければ食指は動かないということなのだろう。十年以上側に仕えている凪にもサーミフの好みはわからないが、彼とて人間なのだから好みくらいはあるはずだ。
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