58 / 107
第58話
「ッッ!」
図書室の奥にある小窓が外から唐突に開けられる。そして音もなく布の塊が転がり込んできた。侵入者かと凪は身構え、外にいる兵士を呼ぼうと振り返る。しかし口を開く暇もなく、いつの間にか側に来ていたサーミフの大きな手で口を塞がれた。もう片方の手で後ろから抱き留められて身動きもできない。この非常事態に何をしているのかと凪が眉間に皺を寄せた時、転がり込んできた布の塊がゆっくりと起き上がった。
先程までサーミフに群がっていた美女と同じような、煌びやかで少々派手な衣装を身に纏った女が、入ってきた小窓をなんとも呑気に閉めている。そしてゆっくりとサーミフに近づいてきた。
「お時間を頂き、ありがとうございます。殿下」
侵入者とも思えぬ落ち着いたそれに、凪はハッとして女を見た。
この声は……。
「いや、こちらこそ面倒をかけて申し訳ない。ヒバリ殿」
凪にわかるよう、あえて名を呼んだのだろうサーミフの言葉に、やはりと凪は目を見開く。この、どう見ても〝ディーディア人の〟美女にしか見えない目の前の麗人はヒバリ本人であるらしい。
ともだちにシェアしよう!

