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第60話
「問題が起きたわけではございません。ただ、お願いがございます」
ほんの少しだけ纏う空気が変わった凪をチラと見たヒバリであったが、視線はすぐにサーミフに戻される。その一瞬の視線がなぜだか凪の癇に障った。モヤモヤと言いようのない不快感が胸からせり上がってくる。しかしヒバリもサーミフも表に出されない凪の変化になど気づくはずもなく、淡々と言葉を交わしていた。
「調査を行う前にディーディア警察が既に入手している情報をいただきたいのです。あまり重複して聞き込みをしては、変に疑われてしまいますので」
もちろん開示して良いと思われる範囲で構いません。そう控えめに告げたヒバリにサーミフは小さく瞬きをした。考えを整理するようにカップに手を伸ばす。
「なるほど。しかしヒバリ殿であれば警察の持つ情報など容易く得ることができるのでは?」
あえて視線をカップに落としながら言うサーミフに、ヒバリは笑みを浮かべた。それはとても美しく魅力的であるが、凪の目にはどこか得体の知れなさが滲む。
美しいがゆえに恐ろしい。
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