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第64話

「では、滞在中は凪殿のお力を借りることにしましょう」  ふいにヒバリは太ももに置いていた手を動かした。何かを撫でるようなそれは無意識だったのだろう、ヒバリはハッとして動いた己の手を反対の手で握り込む。 「私はこれから街に出る予定です。今日は適当に歩くだけですから、凪殿はご自由に」  仕事があるならばそちらを優先して構わないというヒバリに、凪は面倒ながらもサーミフに視線を向けた。サーミフもまた、チラと視線を寄越す。 「ぜひナギも一緒に。彼には他の仕事よりもこちらを優先するよう命じておりますので」  贋金の調査に関係ないのであれば極力関わりたくない。しかし使用人の立場である以上、サーミフが望めば凪に否を言う権利はないのだ。気を抜けば嫌を全面に出しそうで、凪は努めて使用人の仮面を被りながら無言で頭を垂れる。そんな凪に視線を向けたヒバリは、ただ頷いた。 「では裏門にお願いします。すぐに着替えて向かいますので。できれば、凪殿も私服でお願いします。貴国の使用人服は一目でそうとわかってしまいますので」  ヒバリは先程適当に歩くだけと言っていたが、これも調査の一環、あるいは布石の一部なのだろう。ならば使用人服を避けたいと思うのも当然のこと。地味な私服に着替えれば良いのだろうと考え、凪は頷いた。それを見てヒバリは立ち上がる。 「では御前失礼を」  そう言ってヒバリは美しく礼をするとまた窓から去っていった。シンと静まり返った室内に、クツリと笑う声が小さく響く。

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