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第66話
「尾行させますか?」
私室で寛いでいれば、静かに近づいてきた影にサーミフは顔を上げることもせず小さな笑みを零した。スイ、とただ右手を小さく振る。ただそれだけの命令に影は心得たように頷き、小さく礼をして踵を返した。パタンと扉の閉まる音がする。
(雲雀、か……)
胸の内で呟いたのは闇の王が溺愛する小鳥の名だ。しかしサーミフの脳裏に浮かんでいたのは、仮面を被った使用人の姿だった。
美女に化けたように、今回もまったくの別人に見えるよう変装してくるのかと思っていた凪であったが、その予想に反して裏門に現れたのは化粧も何もしていない素のヒバリだった。外国の平民に見えるようにだろう、ディーディアではあまり見ない装いをしているが、逆に言えばそれだけだ。変装とも言えないそれに凪は少々困惑して近づいた。
「平民の服が無いようでしたら、私の私服で良ければ貸しましょうか?」
あまりヒバリと関わりたくない凪であるが、流石にこれでは目立ってしまうだろうと声をかける。ヒバリは凪と同じくディーディア人に比べれば随分と小柄だ。もしかしたら凪と同じように服が大きすぎて裾や袖を調節する時間が無かったのかもしれない。ならばあまり体格は変わらないようなので凪の服を貸す方が調査としては良いだろうと思ってのことだったが、ヒバリは小さく首を横に振った。
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