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第68話
暗にポリーヌも誰もいない状況で危険な事があっても困ると言った凪に、ヒバリは表情を変えることなく淡々と頷いた。
「そのあたりはお気遣いいただかなくて大丈夫です。もし何か危険なことがあったら、例え私の胸を刃が貫いていようと、心臓を銃で撃たれていようと、構わず逃げてください。問題はありませんから」
流石に問題大ありなのでは? と凪は胸の内で呟いた。いくらヒバリが嫌いであったとしても目の前で死なれては凪とて罪悪感やら何やらを抱くであろうし、なによりディーディアにとっては大問題だ。贈り物ひとつにも気を遣うウォルメン閣下の小鳥を損なうなど、国が滅んでもおかしくはない。仮に国は守られたとしても、閣下はディーディアと同じ席に着くことは二度とないだろう。そうなれば側にいた凪はもちろん、夫人であったとしても実母であるツバキも極刑だ。処刑され惨めな姿を晒される可能性は大いにある。
「……帰るか、護衛をつけませんか?」
己の命、母の命、そして国の命運。そんなものを凪が背負えるはずもない。危険は回避すべきだと警鐘が鳴り響く。しかしヒバリはいつもの感情が読めない微笑みで大丈夫だと繰り返し、足を止めることは無かった。
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