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第80話

「……わかりました。私が先に入ります」  凪が付いてくるも来ないもディーディアの都合でしかなく、ヒバリはただただそれに付き合ってくれているに過ぎない。それはわかっているのだが、凪はどうしても渋面を作ってしまう。そんな仮面でも隠せぬ不機嫌さを見せるのも憚られて、凪は俯くと踵を返し、足早に指示された店へと向かった。  奥まった場所にあるそこは、しかし凪の予想に反していたって普通の店のようだった。あまりやる気のない「いらっしゃい」という言葉に、来店者など一切気に留めず酒を飲む男達。奥の方では酒と共に夕食を食べている客もいた。  案内されるわけではなく、好きな場所に勝手に座る形式なのだろう。凪はあまりキョロキョロとせぬよう努めながら隅の方にある席につき、適当に酒と数種類のつまみを頼んだ。  少し待ち、丁度頼んだ酒とつまみが運ばれてきたころ、小さな音をたてて店の扉が開いた。不自然にならぬようチラと視線を向ければ、そこにはディーディアの服を着たヒバリがキョロキョロと視線を彷徨わせながら所在なさげに立っている。

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