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第81話

「いらっしゃい。好きな所に座んな」  あまりに物慣れない様子に愛想の無い店員も心配になったのか、ヒバリに空いている席を促す。その事実に恥ずかしそうにはにかみながら頷いたヒバリは、示された席へと腰を下ろした。そこはカウンター席で、ほぼ同じ場所にずっといる店員とほど近かった。凪が座る場所とは少し離れているが、さほど広くない店内が幸いしてか、ヒバリの姿も見えるし、声もハッキリと聞こえた。 「なんだ兄ちゃん、こういう店は初めてか?」  店員に渡されたメニューをしげしげと見つめている姿が珍しかったのか、凪が入店した時には感心ひとつ示さなかった客の一人がヒバリに近づいて声をかけた。そんな彼にヒバリはまたも恥ずかしそうに苦笑する。 「引っ越してきたばかりで。自炊も上手くできないからしばらくは外食に頼ろうかと思ったのだけど、道にも慣れてないから迷ってしまって。お腹が空いて仕方なかったから、何のお店かも確かめずに入って来ちゃったから」

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