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第82話
偶然店を発見できたのは幸いだが、何が置いてあるのかもわからない。加えて外国人だから、メニューを見てもどんなものか想像できないからちょっと戸惑っていた。そう説明する姿は本当に世間を知らぬ青年そのものだ。言葉だけを見れば言い訳がましく蛇足に過ぎ、かえって怪しまれるのではないかと思うのに、不自然さがどこにもない。現に店員も客もヒバリの言動を怪しんだ様子もなく、そっか、と笑っている。
「そいつは災難だったな。味の好みは何だ? 俺が軽く説明してやるよ」
この客は一度話しかければ懐きやすい性格なのだろうか、楽しそうにヒバリの横に腰かけてメニューを指さしながらあれこれと教えている。それをヒバリも真剣な眼差しで聞き、時折笑みをこぼして頷いた。
「なるほど、これは辛くないってことだから、これにしようかな」
どんなものか楽しみだとヒバリは笑う。それにつられて客も笑った。
「なんだ、辛いものは嫌いか?」
「舌がピリピリするのが苦手で。年齢に似合わずお子様舌だから」
ペロ、と少しだけ舌を見せておどけたヒバリは無垢な子供のようで可愛いのに、どこか艶めいている。遠くから見ている凪ですらそう思ったのだ、目の前でそれを見てしまった客はもっと衝撃を受けただろう。その証拠に、客の頬が急速に赤らんでいる。
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