85 / 108
第85話
酒を飲んで気分でも悪くなったのだろうかと足早に駆け寄る。すると袋を持った二人の子供の姿が見え、どうやら彼らの目線に合わせてしゃがんでいるだけだとわかった。ホッと息をついてヒバリに近づく。それに気づいているのだろうが、ヒバリは穏やかな笑みを浮かべて子供の話を聞いており、凪に視線を向けることは無かった。
「これ、いりませんか?」
「水晶で、ひとつ三百エニーです」
そう言って子供が袋の中身を見せる。
「全部売れないと家に帰れないんです」
「ひとつ三百エニーです。買ってくれませんか?」
凪がそっと覗けば、袋の中には三つずつ透明な玉が入っていた。同じように袋の中を見ていたヒバリは懐から財布を出し、千八百エニーを子供に渡す。
「わかった。全部買うから、もう家に帰れ。夜も遅いのに、子供がこんな場所で歩いていたら危ない」
早く、と子供に金を握らせる。すると子供はピョンピョンと嬉しそうに飛び上がり、袋を渡すとそのまま駆けて行った。その様子に凪は半目になり、深く深くため息をつく。
「ぼったくられてますよ。それ、どう見ても水晶ではなくガラス玉です」
本物の水晶なら三百エニーは破格の値段だが、ガラス玉で三百エニーは高すぎる。暗がりで鑑定しにくかったにしても、ヒバリは世間を知らなすぎるだろう。だというのに、子供のお涙頂戴に騙されて全部買ってやるなんて人が良いという問題ではない。これでよく閣下の側を離れたものだと凪はもう一度深くため息をつく。そんな凪をチラと見て、ヒバリは袋を持つと立ち上がった。中から一つ、ガラス玉を取り出す。
ともだちにシェアしよう!

