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第98話

 目の前に美しく、そして懐かしい光景が広がっていた。  華美ではないが風に揺れる花の花弁さえも洗練された静かで美しい庭。そこには父の趣味で白に統一されたガゼボがあり、母の客人が来た時はよくそこでお茶をしていた。小鳥の囀りが響き、蝶々が舞う。外の煩わしさから切り離された特別な空間。そこにポツンと立った凪は、すぐにこれが夢だと気付いた。  懐かしいと思うくらい、この光景も、この風も遥か過去のものだ。それが良いのか悪いのか、この身はもう随分とディーディアの地に慣れてしまっているらしい。兎都を愛しく思い、例えどこに身を移そうとも己は兎都の人間だと思っているが、心とは裏腹にこの身は兎都に帰れず、どんどんと記憶から懐かしい全てが消えていく。なんとなく、この夢でさえもたくさんのものが欠けているように思えた。

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