104 / 107
第104話
「本当だ。すごく甘い。味は違うけど、桃とかスイカとかを噛んだ瞬間に溢れるそれに似ている。香りも花畑にいるみたいだ。味も香りもこれと断言できるものがない。確かに、天国に飛び込んだかのようだ」
美味しいと言ってヒバリは再びグラスに口をつける。苦しがる様子もなく、口調もハッキリとしていて変化はない。凪の思い過ごしだったのだろうか。何かあるのではと勘繰っていれば、普通のことでも怪しく思えてしまう、ということなのだろうか。
ジッと様子を見ていてもヒバリに変化はない。ならば大丈夫だろうと凪は自らの酒をゴクリと飲んだ。安酒にもかかわらず口当たりの良いそれは何杯でも飲みたくなるが、いかに凪が酒に強く浴びるほど飲まない限り酔うことはないとはいえ今は仕事中。この一杯に止めておこう。
「お、けっこう飲めるくちだな。そういえばジョゼフはどこの国から来たんだ? これだけ飲めるってことは、酒に強いって噂のセランネか?」
ジョゼフはヒバリが使う偽名だ。その名を耳にして凪はチラと視線を向ける。ヒバリは酒に酔ったのか、少しトロンとした瞳を男に向け、ふふふ、と笑った。
ともだちにシェアしよう!

