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第105話
「いいや、兎都だよ」
兎都。その言葉にピクリと凪が反応する。それに気づくことのないヒバリは、ふふふ、ふふふ、と楽しそうに笑った。
「兎都? 確かにあんたの見た目は兎都っぽいが、名前が違うだろ? ジョゼフは明らかにこっち側だぜ?」
確かに、凪しかり、ツバキしかり、兎都の名前はディーディアやその周辺諸国とは全く違う形だ。ヒバリという本名を名乗っていれば違和感もないが、ジョゼフという名前は兎都に馴染まない。男に疑問を持たせるだけの答えに、もしやヒバリは酒に酔っていて設定ではなく本当のことを話してしまったのだろうかと凪は焦った。自分を落ち着かせるようにもう一口酒を飲んで口内を潤す。そんな凪の心中など知る由もないヒバリの笑い声が小さく耳に響いた。
「ふふふ、名前はね、お父さんがつけてくれたもの。お父さんはセランネ。お母さんが兎都」
だからジョゼフって名前だけど、ずっと兎都にいた。楽しそうに笑いながらそう話すヒバリに、男は納得したのか否か、へぇ、と笑みを浮かべる。ジッと、その瞳はヒバリを見つめていた。
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