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第110話

 尊き方々が住まうがゆえに厳かさと神聖さが求められる宮殿とはいえ、昼間はそれなりに騒がしいものだ。使用人達もあちこちと動き回っていて、休憩時間でさえ食堂にいることがほとんどで自室に戻る者は少ない。そんな中、ひとつの影がこっそりと身を潜めるようにして数ある扉の一つを開いた。そこは備え付けのベッドと机、そしてクローゼットがあるだけの簡素な部屋だ。少々乱れたベッドや机の上に置かれたメモなどが生活感を見せているが、その程度である。そんな部屋に音もなく忍び込んだ影は迷うことなくクローゼットを開けた。そして掛けてある数枚の使用人服ではなく、隅に置かれた黒っぽい私服に手を伸ばす。そしてその折り返された襟の間に小さな機械を取り付けた。そしてほんの少しの隙もないほど完璧に戻し、影は部屋を出る。その姿を見た者は誰もいない。  そう、誰もが思っていた。

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