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第122話
ヒバリはここから動かないが、ポリーヌとロールは逃す。そう言っているに等しい彼に、ポリーヌは眉を吊り上げた。
「もしもそれを本気でおっしゃっているなら怒りますよ?」
誰が何を命じようと側にいる。その意思を全身で表すポリーヌにヒバリは苦笑した。そして立ち上がり、ポリーヌの腕にロールを抱かせる。
「ありがとう。ならもう少しだけ、協力してくれ。ティゼットにもそう伝えてほしい」
小さく微笑む主に、ポリーヌは全てを察してただ頷いた。そしてロールを片手で抱き、空いたもう片方の手でそっとヒバリの肩を撫でる。ポン、ポン、とヒバリの心を宥めるように撫でて、ポリーヌはロールを抱いたまま寝室を出た。
パタン、と扉が閉まる。
「――ッッ」
独りになった瞬間、ヒバリの中で何かが溢れた。耐えるように胸をきつく抑え込む。震える唇を噛みながら、ヒバリは喉元をトントン、トントンと指で叩いた。
「薬の情報、天使の微笑み、兎都、望月……」
吐息に混じるほど小さく言葉を羅列する。縋るように己の首を掴んだ。
身の内で暴れ回るモノがある。もうずっと、ずっとこの身に巣食っているモノだ。だが、どうあっても慣れるものではないらしい。テーブルの上にチラと視線を向ける。砕けたガラスを鷲掴みにしたい衝動に駆られ、しかしまだ手を傷つけるわけにはいかないと耐えるように拳を握る。
(もう、失敗は……)
許されない。
唇を噛み、ヒバリは袋から丸々としたガラス玉を取り出す。
(冷静に、確実に遂行を。そのためには、この感情など不要!)
震えるほど強くハンマーを握り締める。そして――
ガチャンッッッ!
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