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第127話

「なぜ、か……」  静かに問いかけられて、サーミフは深くため息をついた。そんなことをしたところで胸の内に巣食う重苦しい何かが消えるわけではないが、こぼれ出るそれを止めることができない。 「ずっと不思議に思っていたことがある。あの時、なぜヒバリ殿は兎都の母子を連れてきたのだろう、と」  あの日、ディーディア国王とウォルメン閣下が対談したあの日、外に出たはずのヒバリは傍に美しい女と子供を連れてすぐに戻ってきたという。サーミフは生憎その場に居合わせなかったが、話を聞くだけでも不自然だった。  この女性を自分の妻にしたい。自分を含めた息子たちを集めツバキを紹介した父王に、本当は反対したかった。それは兄である王太子もまた同じ気持ちだっただろう。  異国の女を娶るのが駄目だと言うのではない。その女が駄目だったのだ。 「この国に来て数日で〝たまたま〟ヒバリ殿と会い、助けてくれと言ったら〝なぜか〟ヒバリ殿はそれを受け入れ、〝たまたま〟その日あった会合の場に連れて行った。そして連れられた女は〝偶然にも〟陛下がひたすらに愛し、一年前に亡くなった正妃の若かりし頃によく似ていた。こんな偶然があるものかと吐き捨てたくなるが、百歩譲って、そんな偶然も重なるかもしれないと仮定する。だがな侍従長、陛下が求婚するのは良し悪しを別として理解はしよう。愛した人とそっくりな人が現れたんだ。段階など無視して手を伸ばすことは、褒められたことではないかもしれないが無い話ではない。だが彼女は? なんの理由があって二十も歳の離れた、それも妻が沢山いる男の求婚に、会ってその日その瞬間に頷いた?」

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