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第141話

「ご実家からということは、娘である夫人を思っての贈り物でしょう。そのように大切なものを、私がいただいてもよろしいのですか?」  政治の絡む贈り物ではなく、これは思いの籠ったものではないのか、とヒバリはツバキを見つめる。暗に受け取れないと言うヒバリに、ツバキは微笑んで首を横に振った。 「まだ幾つか残っておりますし、特別なものでもありません。ですから、どうぞお受け取りください。必要な方に使っていただく方が、きっと実家の者も喜びます」  それに、とツバキは胸の内で呟く。  それにあの日、ツバキを、凪を救ったのはヒバリなのだ。実家からすれば大切な愛娘と孫の命を助けた恩人。その恩を返すには、こんな小瓶ひとつでは到底足らない。 「……ヒバリ様。今はこんなことしかできませんが、それでも、もし、何か私にできることがあれば、どうか、私を使ってください。お役に立てるのならば、なんでもいたします」  ツバキの本心がどうであるかなど誰にもわからないが、その言葉に凪は眉間に皺を寄せる。夫人とはいえ女であるツバキが男であるヒバリに言うには、あまりに不用意な発言だ。足元を掬おうと狙っている者が聞いていれば、彼女は夫と子供がいる身でありながら若い男に股を開こうとしている淫婦だとたちまち噂を流されることだろう。そしてツバキは、それを否定しきることはできず、周りもツバキの言葉など信じない。なぜなら凪という存在がツバキの過去を物語るからだ。たとえ凪が、一切口を開かずとも。

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