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第144話

「けれど、こう無味無臭では気付きようもないのが事実、か。本人達に止めるよう言ったところで、飲み物や料理に混入されては防ぎようもない。毒としての効能があまりないことを期待するしかないな」  多くの効能を持つ毒というのは、実はさほど多くはない。複数を組み合わせて調合すれば 可能かもしれないが、無味無臭を加えると更に難しいだろう。そして死に直結してしまうような毒をツバキに渡すには危険が多すぎる。  可能性は限りなく低い。だが、全くないというわけでもない。それがヒバリの胸をざわつかせる。 「もう間に合わないかもしれないが、解析に出してくれ。もしも死にいたるような成分が発見されたら……、いや、これ以上は出過ぎた真似だな」  深くため息をついて、ヒバリはソファに背を預ける。視線は未だ小瓶に注がれていた。 「……夢さえも見ない眠り、か」  グッスリと眠れる、そう言ったツバキの顔を思い出す。 「ヒバリ様?」  ポツリと溢されたそれにポリーヌが視線を向ける。それに気づいてヒバリは首を横に振った。 「いや、なんでもない」  その言葉がまったくの嘘であることを、ポリーヌは知っている。小さく息をはいて、彼女はヒバリの前で膝をつくと、その白く小さな手に己のそれを重ねた。 「これの解析が終わったら、帰りましょう? 旦那様も、きっとお待ちです」  ピクリと、ポリーヌに包み込まれた手が震える。迷子のように不安げな瞳が何を示すのかを知って、ポリーヌは優しい笑みを浮かべた。 「大丈夫です。ね? 旦那様に迎えに来ていただきましょう?」  きっとすぐに飛んできてくれる。そう言ってポリーヌは宥めるようにポンポンとその手を優しく撫でた。 「帰りましょう? ね?」  優しい声音に、ヒバリは子供のようにコクンと頷く。それにまたポリーヌは笑みを浮かべた。

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