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第147話

「ルナ」  小さく声をかければ、彼女はピクリと反応して凪を見る。その瞳が僅かに揺らいでいるのを見て、凪は自分の求める答えを彼女が持っていることを確信した。 「時間があれば、少し手伝ってくれないか?」  その言葉にルナは少し迷った様子を見せたものの、次の瞬間にはコクリと頷いた。  凪もルナも立場を問われたら使用人だと答えるだろう。その言葉に違いなどないが、凪はサーミフの側仕えで、ルナは一介の使用人。ほんの少しではあるが、上下の差は存在する。それを笠に振る舞うのは凪の信条に反することではあるが、今は仕方がないと割り切ることにした。  凪とルナは揃って庭の方へ足を向ける。女達の視線が無くなったのを確認して、凪は前を見ながら口を開いた。 「何か噂が広まっているようだが、詳細を知らないか? 皆が僕を見ている気がする」  ほんの少し瞼を伏せる。凪よりも背の高いルナにその姿は殊更頼りなく、寂しげに見えた。  言うも言わぬもルナの自由だ。けれど言わないことが残酷な所業のように思えて罪悪感が募る。  不意に知るのも、知らぬままにサーミフや国王に叱責されるのも可哀想だ。そう思ったルナは凪と同じように視線を前に向けたまま震える唇を開いた。 「……ツバキ第三夫人がサーミフ殿下の客人と密通しているとの噂が。女性の方々は皆、記念式典の後から第三夫人の肌艶が良くなり、衣装も少し華やかになったと言っています。なにより、ずっと嬉しそうなのは客人がいる間は密会を重ねているからだ、と」  その言葉にピタリと凪の足が止まる。目を見開いて固まる彼に、ルナは同じように足を止めながら同情の眼差しを送った。

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