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第150話

「いこう」  グニャリ、グニャリと歪に蠢く胸を無視して、凪は顔を上げるとまっすぐに歩き出した。その後ろを心配そうに瞳を揺らすルナが続く。  その様子を、ジッと静かに見つめる者がいたのにも気付かずに。 〝ヒバリ様〟  夢の中でそう彼を呼ぶ母の声が聞こえる。その声に振り返った彼は、凪が今までに知るどの男性よりも――否、女性を含めてもなお、いちばん綺麗だった。  彼の太腿くらいまでしか背のない凪は必死に首を反らせてその瞳を見つめる。  変わることのない表情。淡々とした声音。けれど凪は一瞬己に向けられたその瞳の中にほんの微かな温もりを見たような気がした。  コロコロと鈴を転がすように楽しそうな母の声がする。  見上げた先にある母の笑顔。  幼かった凪には、ただただ母がこの晩餐会を楽しんでいるように見えた。  だが今になって思う。  あの笑顔は、本当は別の意味を含んでいたのではないか、と。

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