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第158話
凪がいないことに気づいて両親か兄でも探しにきたのだろうか? ならば終わるまでここにいたいと言うのは我儘だろうか。けれどもう少し、もう少しだけこの美しいベンチに腰掛けていたい。そんなことを考えながら星も見えぬ空に向けていた視線を戻す。するとそこには凪が想像していた両親や兄ではなく、広間で貴族に囲まれているはずの客人の姿があった。
夜空よりなお深い黒の髪を風に靡かせて、顔に何の表情を浮かべることもなく彼はただジッと凪を見つめていた。先程放すまいとするかのようにその細腰を抱いていた腕の主は広間に置いてきたのか、彼はただ一人凪の前に立った。
「あ、あの……」
立って挨拶をしなければ。そう思うのに幼い凪の身体はピクリとも動こうとしない。いかに子供であっても晩餐会に出る以上、その身はただの子供ではなく貴族令息だ。国王の招いた客人に対して無礼を働くなど許されない。早く、早く立って挨拶しなければ……。
焦りで凪の額から汗がつたう。その時、目の前の客人は静かに膝をつきベンチに座る凪に視線を合わせた。
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