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第159話
「迷子、ではないと思うんだが……」
しかし迷子であるのだろうか? そんな困惑が無表情であるというのに目の前の彼から伝わってきて、凪は慌ててブンブンと勢いよく首を横に振った。
「だ、だいじょうぶです。かえり方はちゃんとわかっています」
だから心配する必要はない。そう伝えた時、無表情であった彼はほんの少し口元を緩めた。ほんの細やかな、笑みとも呼べぬ笑み。けれどその微笑みがとても綺麗で、凪はボウっと見惚れてしまう。
凪の世界は自分にお金をかけられる貴族で囲まれている。最高の手入れをして、最高の技術で髪や肌を飾り、そして輝くばかりの宝石を身につける彼女たちはそれに見合うだけの美しさを持っていた。けれどなぜだろう、そんな光り輝く彼女たちよりも、目の前の藍の礼服を着た、特に色鮮やかな布や宝石で飾り立てているわけでもない彼の方が美しく見える。彼は見たところ化粧だってしていないというのに。
「閣下に対して歓迎の意を示してくれる陛下や貴族の方々には感謝するが、このような場は幼子にとって退屈だろう」
例えその幼子であったとしても、挨拶もしないで抜け出したのはあまり褒められたものではないだろう。その無礼を咎めるでも、なぜ抜け出したのかを聞き出すでもなく、彼はただ穏やかに凪に寄り添った。
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