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第168話
「ですがこちらのご令息もずっとここにはいられませんし、彼にだけ会っていたとなれば色々面倒なこともあるでしょう。人の多い場所がお嫌いなのは重々承知しておりますが、あなた様が旦那様の特別である以上、戻らなければ」
人には役割がある。望む望まないに関わらず、人には何かしら立場ゆえの義務を負うのだ。きっと男はそれを言っているのだろう。
「…………」
男の言葉に反論しないものの、瞼を伏せるヒバリはどこか辛そうだ。よほど人の多い場所が苦手なのか、あるいは――。
「……わかった。戻ろう」
一呼吸の後に、ヒバリはひどく重たげに立ち上がった。それにホッとしている男をチラと見て、ヒバリは凪に視線を向ける。
「残念だがここまでのようだ。凪殿も会場に戻られるのであれば近くまで一緒に行こう。〝すぐそこで偶然に会っただけ〟と言えばさしたる問題もないだろう」
あなたや望月家が責められることはない。そう凪を気遣うヒバリに感謝するが、同時に苦しくなる。凪はコクンと頷いて、ヒバリや男と一緒に歩き出した。
一歩、一歩と進むごとに音楽が大きく聞こえてくる。グルグル、グルグルと先程のヒバリを思い出しては考え込んでいた凪は、もう別れなければいけないという時に思い切ってその華奢な手を掴んだ。
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