172 / 181

第172話

 ザワザワと騒めきに満ちた場は、まだ閣下の姿も無いというのに異様な緊張感に包まれていた。国賓なのだから特別であることはわかっているのだが、それでもこれほどまでに緊張する理由が凪にはやっぱりわからない。だってあの時話したヒバリはとても穏やかで優しかった。偉ぶることもなければ横暴でもない。そんな彼は人の多い場所に戻ることは嫌がったが、閣下の側に戻ることは別段嫌がっていなかったように思う。ならばきっと閣下だってそんなに怖い人では無いはずだ。ヒバリの腰を抱いていた姿だって、とても優しそうだった。  怖いと言うなら、もっと横暴で癇癪持ちな国賓はこれまでにも何人かいた。まだまだ短い凪の人生の中でも強烈な印象を残した彼らは、国王の前でも横柄な態度をとったし、貴族だけの場であれば平然と顰めっ面をしたり怒鳴ったりしていた。それは晩餐会といった交流の場だけではなく、実際の貿易や輸入などにも持ち込まれたと両親が話しているのを凪はこっそり聞いたことがある。そんな彼らの方が、凪としてはよほど怖いし、晩餐会などは何が起こるかわからないと常に緊張で身をこわばらせるだろう。しかし彼らの時でさえ優雅で上品、心の中はどうであれ緊張など表に出すこともしなかった貴族がこの有様とは。

ともだちにシェアしよう!