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第187話
兎都の貴族夫人で、子供もいる。そんな自分の立場をよく理解しているのか、ツバキは目立つことを避け、調度品や服装も地味にしている。国王と語らい、ナイーマを慈しむ生活は穏やかだが、見る者によってはつまらなく感じる事だろう。そんな彼女が、近頃ほんの少し着飾るようになったのだ。そう派手に見た目が変わったわけではないが、ほんの少し、いつもより胸元が見え、ほんの少し、身につける宝飾品を増やして輝かせるようになった。
ほんの少し、目元を華やかせ、ほんの少し、唇が赤くなった。そしてほんの少し、部屋から出る回数が増えた。
どれもこれもパッと見てわかるような変化ではない。ほんの少し、注意して見なければわからないほどだ。しかし女達は案外目敏いものだ。すぐにその変化に気づき、そして噂をする。
「今回の噂だけは、ヒバリ殿に非はない。だが、この噂のおかげで確信が持てた」
サラサラと書類にサインをしながら、サーミフは小さく息をつく。その表情はどこか暗くて、侍従長は静かに視線を向けた。
「ナギは愚鈍ではないはずだが、今回の噂をヒバリ殿のせいだと思い込んでいるのだろう。だからこそ、ヒバリ殿に会いに行ったはずだ」
自らの母親が原因だとは思ってもいない。その態度が透けて見えたからこそ、ポリーヌは怒りを見せた。
「結局、ナギは望月 椿の息子だということだ」
残念なことに。
小さくため息をついたサーミフに、侍従長は何も言わずただ頭を垂れた。
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