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第191話
出会いさえしなければ、何も始まらなかった。
母がディーディア国王の妻になることも、この身が王子の使用人になることも、国王がいながら客人と密通しているなどと噂されることも、何も。
「…………」
沈黙が落ちる。互いの息遣いさえ消し去るように、ポツリ、ポツリと雨が降り始めた。それは次第に強くなり、ザァザァと地面に打ち付けられる。髪も服もグッショリと濡れているのに、どちらも足を動かすことはない。
どれほどそうしていただろう。長い沈黙が落ちる中で、ヒバリの手が動いた気配がした。
「……戻って、ください。これ以上の同行は、不要です」
手で口元を覆っているのだろうか、その声はどこかくぐもって聞こえる。凪が勢いよく顔を上げ、ヒバリが背を向けるように踵を返す。
その時、凪は頭に強い衝撃を受けて倒れ込んだ。
「ッッ――!!」
目を見開き、バチャッッ、と水溜りに倒れ伏す。その音にヒバリは振り返り、目を見開いた。
「なんだ。偶然見かけてつけてみたら、あんたもここにいるなんてな」
凪の背に膝を乗せながら拘束する男は、しかしジッと逸らすことなくヒバリを見つめている。
「しかも随分と親しげ……ってわけじゃなさそうだったが、でも知り合いではあるんだろ? ってことは、こいつのお仲間ってことか。それは実に残念だ」
そう言って男は――いつも店でヒバリに親しげに話しかけていた男はゆっくりと息を吐く。そして軽く手を上げて、何かを凪の首元に刺した。その瞬間、眠気などなかったのに瞼が落ちていく。抗っても抗っても止められない。
「ま、どちらにせよこいつの未来も、あんたの未来も決まってるけどな」
その言葉を最後に、何もわからぬまま凪の思考は途切れた。
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