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第200話

「……そんなものが存在するのですか? 特定の者以外にとっては無害な毒など聞いたことがない」  そんなものがあるのなら、もっと暗殺される者が増えていたことだろう。特定の者以外には毒でないのなら、仮に見つかったとしてもこれはただの水ですと言って切り抜けることができる。そんなおとぎ話のようなものがあってたまるか。  政の一端を担う者としてサーミフはひどく現実主義者であった。こちらが何も掴めていないからと閣下はおちょくっているのだろうか、という考えさえ浮かぶ。しかし視線の先にいる閣下は笑みこそ浮かべているものの、真剣な眼差しをサーミフに向けていた。 「そうだね。君の言うことは正しい。これは存在しないものだ。――表向きはね」  だからサーミフが知らなかったとしても不思議ではない。むしろ当たり前のことだと閣下はため息をついた。 「私もヒバリに言われるまでこの存在をすっかり忘れていたよ。なにせ、これは数千年前に消え去ったはずのものだからね。私も実物を見るのは初めてだ」  よほどその現実は重苦しいものなのか、閣下は再びため息をつく。それでもその顔からは憂いが取れることはない。

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