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第203話
「覚えている人生の数は人によって違うらしいが、それでも全員が少なくとも二度過ぎ去った人生を記憶として保有していたそうだ。中には、数えきれないほどの人生すべてを覚えている者もいると言う」
彼らは時に男として、時に女として、時に高貴な者として、時に貧民として生きた。
「兎都から発見された文献ではないが、見つかった資料にはこう書かれていた。〝彼らはすべてを記憶し、その手はすべてを分け与え、すべてを慈悲で取り除いた〟と。これは学者たちの意見だが、おそらく彼らは覚えているだけにあらず、他者の記憶を取り戻したり奪ったりできたのだろう。覚えている兎都の者に使う必要はない。おそらく兎都の血が流れぬ者達の手を握り、その記憶を蘇らせ、あるいは奪った」
誰だって思い出したいことの一つや二つはあるだろう。例えば亡くしてしまった母の面影、父が名を呼ぶ声、幼き日に過ごした友との笑顔。そして同じように、消してしまいたい過去も人間には数えきれないほど存在する。
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