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第204話
「例えば理不尽な怒りをぶつけられた記憶、例えば社会から排除された記憶、あるいは予期せぬ過ちを犯してしまった記憶、感情のままに誰かを傷つけてしまった記憶。おそらく人間という生き物はどれだけ年月が経とうと、環境が変わろうと、世界が変わろうと、思い出したい記憶よりも消し去りたい記憶の方が多いのかもしれない。そしてそれを兎都の者たちは慈悲でもって奪った」
彼らは記憶を持ち続ける種族だ。忘れ去りたいものを持ち続ける苦痛を知るからこそ、人間に慈悲を与えたのだろう。
「……そんなことが、ありえると?」
サーミフは眉根を寄せる。とても信じがたい話だ。それではまるで神力を使いこなす神ではないか。そんなサーミフの心を読んだかのように、閣下はひとつ頷いた。
「だから、神話のようなものなんだ。彼らは人の形をしているが〝記憶の操作〟という特殊な人ならざる力を持っている。わかりやすく言うならバンパイヤやエルフといった者達と同じだろう。人と同じような姿形を持ち、同じ言語を話し、同じように生活をしている。もちろん、その習性や命の糧、力や寿命といったものは違うがね。つまり兎都の者も大きく分類するなら人類ではなくそちら側、もっと言えば妖精に近いようだ」
文献には兎都の者の寿命は平均で四百年程度だとあった。エルフだと言うには性質も違うし寿命も短いが、それでも魔物に分類するには彼らは優しく清らかにすぎる。
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