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第205話
「……確かに、今の世においても両の指の数ほどとはいえ魔法を使える者がいますし、人の手が入っていない未開の地には少しではあるものの魔物が住んでいることも承知しています。ですが――」
一般市民であったとしても、この世界にはかつて人間以外にも多くの魔物や妖精といった種族がいたことは義務教育として習うため皆が知っている。そしてサーミフは一国の王子だ。もはや伝説となっている魔物が今も種を繋いでいることも、ほんの僅かになってしまった魔法士を国際機関が有していることも知っている。存続していると聞いたことはないが、仮に魔物と同じようにごく少数のエルフが生き残って今を生きていたとしても、それはまったくあり得ない話ではない。だが、それでも。
「ですが私はこの話を聞いたことがありません。国王たる父からもです。兎都の国に住まう何万何千の民が特殊な一族であると一国の王が知らぬなどあり得ない! まして我々は幾度となく兎都の者と交流しているのです。ツバキ殿しかり、ナギしかり、この国にも多くの兎都の者がおります。私が兎都に赴いたことだって何度もある。しかしそのような気配は少しもッッ――」
「無いと思うよ? なぜなら今の彼らは君たちとなんら変わらない〝人〟であるのだから」
チラ、と何かを気にするような素振りをしながらも閣下はサラリと言った。まるで空から降る水は雨というのだと言うかのように、当たり前を説いているように少なくともサーミフの目には見える。
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