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第206話

「何度も言うけれど、これは神話と呼んで差し支えないほど遥か昔の話なんだ。そこから現代にいたるまで途方も無い時間が流れている。人間だって時代の流れと共に考えや環境が変わったりしているだろう? 昔は国などという概念は無かったし、通貨も存在しなかった。同じ国であるはずなのにいつから言語が変わり、昔の言葉は特別に学習しなければ読み解くことさえできなくなった。いつからか人は太陽が昇ったら朝だと言い、それが一日の始まりにした。過ぎゆく時に数字という名を与え、目で見ることのできない喜びや悲しみを心と称した。これだけ目まぐるしく変わっていくのだ。彼らが変わったとて、なんらおかしなことはない」  彼らは人々に慈悲を与えていたのだ。当然、その身に存在するのは慈悲だけではないだろう。 「セランネが保有している文献にはこう書かれていた。〝彼らは只人を愛し、只人もまた彼らを愛した〟と。おそらく、何の力も持たない人間と交わることで、その子供は少しだけ血が薄れたのだろう。それを繰り返す内に彼らは特別な力を失い、人間からすれば長い長い寿命が短くなった。だが、それは彼らにとって幸福なことではないかと私は考えている」  幸福など、他者が勝手に決めつけるものではない。分かった上で、それでもウォルメン閣下はそう考えた。

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