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第213話

「この毒は少し手を加えられているようでね、実に有能だよ。飲んだ者の記憶を奪うばかりか、言葉を信じ込ませることさえもできる。例えば、意に沿わぬサインなんかも、させることができるだろうね。彼らにとっては残念なことに、やはり兎都の者以外にはなんの効力も発揮しないが」  意に沿わぬ――その言葉にサーミフはハッと顔を上げる。  もしや、まさか……。  しかし悩んでいられる暇はもう、与えられない。 「……まずいな。少し話しすぎてしまったかもしれない。今日のところはこれで失礼するよ。だがこれで、現実主義者の君も〝何が現実なのか〟が見えてきただろう? 後は君がどうにかすべき問題だ。我々は口出ししない」  言い争うような声が聞こえる。立ち上がった閣下に、サーミフは視線を向けた。 「ありがとうございます。正直、閣下にここまでしていただけるとは思っていませんでした」  多少の進歩は期待していた。しかしもたらされた情報はただの親切や友情ととらえるには大きすぎるものだっただろう。なぜそこまでしてくれたのか、と知らず瞳が揺れる。ソレを見た閣下はただ踵を返した。 「他の誰でもなく、私の可愛いヒバリのためだよ」  これで連れて帰れると閣下が呟いた瞬間、その声は二人の耳に響いた。 〝あなたに――出会わなければ良かった〟  その瞬間、閣下は険しい顔をして駆け出した。何が起こったのか、サーミフにはわからない。わからないが、自分は大きな間違いをしたのだと気づいて、サーミフは兵を揃えるよう命じると閣下を追いかけるように駆け出した。

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