219 / 221

第219話

 しばらくすると、凪の耳にも聞こえるほど足音が近づいてきた。何がなんだかわからぬまま、それでも自分では何一つできることはないと理解し瞼を閉じる。それに、こんなにもおかしな状況だというのに未だ頭がボンヤリしているのは変だ。寝ぼけているというだけでは説明がつかない。  頭は働かないが、それでもヒバリは何が起きているのか理解しているようだった。ならばヒバリの言うことを聞くのが最善策なのだろう。  口元を覆うハンカチがあまり見えぬよう、凪は扉に背を向けるように寝返りをうつ。その姿にヒバリは小さく微笑んだ。 「ありがとう」  それは何に対しての礼だったのか、凪にはわからない。側でゴソゴソと動く気配がして、凪はうっすらと瞼を開く。目の前にいたヒバリは己の靴を少し弄っていた。すると分厚い靴底の一部がパカリと開く。そこから何か小さな小瓶を取り出し、彼は徐にそれを口に含んだようだった。そして何事もなかったかのように小瓶を靴底に戻す。靴が完全に元に戻ったのを確認して、ヒバリは立ち上がり扉の方へ足を向けた。  何をするつもりなのか、と胸が騒めくが、凪は大人しくすることこそ自分がすべきことと言い聞かせて、もう一度瞼を閉じる。ギュッと強く瞑ってしまいそうになるのを必死に抑え、自然に眠っているよう装った。

ともだちにシェアしよう!