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第226話
ボンヤリと、まるで夢の中に落とさんとする霧に抗うように強く唇を噛む。プツリと破れた痛みと口内に広がる鉄の味がほんの少し凪の思考を明るくした。
大丈夫、頭は働かないけど立ち上がれる。足も、手も動く。
だから――、
「泣かないで」
一緒に行くよ、と言えばヒバリはくしゃりと顔を歪めた。今にも泣きそうになりながら、ありがとうと何度も呟く。互いに手を握りあって、そして何もない部屋をそっと抜け出した。
逃げようと決意したものの、凪はもちろんヒバリもここに無理矢理つれてこられた立場だ。当然のことながら建物の構造などを把握しているわけではない。馬鹿正直に玄関から逃げても良いものだろうかと少しは考えたが、そもそも玄関がどこにあるかすらわからなかった。
「多分、ですが、窓が一つもないからここは地下の可能性が高い。地上でも無いことはないかもだけど、それは一目で怪しいとわかるから」
つまり地上部分で窓を無くしている建物ならばすでに国が何らかの形で中を改めているか、少なくとも警戒状態にあって人を――それも小柄とはいえ大人を二人も連れ込むことは難しいとヒバリは考えているのだろう。
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