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第230話
「だいじょうぶ、ですか?」
いつの間にかヒバリを掴んでいた手は解かれ、立ち尽くす凪を他所にヒバリは女性の一人に近づいた。特に縛られている様子もないが、力無く横たわっている彼女は一見眠っているようにも見える。しかしその瞳は凪と同様ボンヤリとしながらも、真っ直ぐにヒバリを見ていた。
「おね、がい……、この子、たすけてあげて……」
この子を、と女性は腕に抱いていた五歳くらいの子供をほんの少し撫でる素振りを見せる。子供は泣きそうな顔をして女性の胸元にしがみついていた。
「まよい、こんで、しまったみたい、なの……。この子は、まだ大丈夫、みたい。だから……、逃げるなら、おねがい……、一緒に、この子を、つれて行って……」
おそらくは凪と同じように思考を霧が覆い隠そうとしているのだろう。それに抗うよう女性は何度も何度も瞬きをしながら途切れ途切れに助けを乞うた。その姿にヒバリがどこか辛そうな顔をして目を細める。
「なぜ、逃げると?」
とても小さな、ぽつりと零されたヒバリの問いが聞こえたのだろう。女性は力無くクスリと笑った。
「だって、扉がほんの少ししか、開かなかったもの……。ここの人達は、恐れていないから、もっと、行動は大雑把……。だから、あんなふうに中を見るのはきっと……、だれかが、逃げ出そうとしているんだ、って……」
それでも確証はなかったから随分な賭けだったけど、と女性は笑った。その笑みはまるで、私はその賭けに勝った、と言っているかのようだ。
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