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第231話
「あなたは、逃げなくていいのか?」
子供だけ姿を消したとなればどんな馬鹿であろうと疑いの目を向けるだろう。何をしたのかと拷問を受けるかもしれない。待ち受けるのは死か、死が極楽に思えるほどの地獄かもしれない。わかっているのかとヒバリは言うが、彼女はやっぱりクスリと笑った。
「さすがに、これじゃぁ無理ね……。でも、これでもきっと、正気を、たもってる方、よ……」
それでも限界は近い。
「だがこの子はあなたの子ではないだろう。それなのに、命を賭けて良いのか?」
ヒバリの言葉に凪は思わず子供を見た。そしてようやく、女性二人はトロンとした目をしているというのに、子供はしっかりと目を開いていることに気づく。そして髪も瞳も兎都の特徴を持つ女性とは似ても似つかぬ金髪に菫の瞳をしていた。
おそらくは、ここがどんな場所であるか知らずに子供の好奇心で入り込んでしまい、見てはならないものを見たから閉じ込められたのだろう。すぐに殺さなかっただけ良心的であるのかもしれないが、何事もなく子供を帰すなどするはずもない。きっと女性が恐る通り、このままであれば子供の未来は悲惨になる。
けれど、女性にとって子供は赤の他人。自分が惨たらしく苦しめられて死ぬ未来を受け入れてまで、助けようと思うのか。その問いに、彼女はケラケラと笑った。
「かんけい、ないわ……、だってわたし、おかあさんだもの……」
そう言って彼女は動かぬ身体を無理矢理に動かして、腕の中の子供を力一杯抱きしめながらそのつむじに口付けを落とした。
「だいじょうぶ、守ってくれるわ……。だから、おいき……。あなたに、しあわせが、訪れますように……」
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