240 / 240
第240話
「何を考えているのか、なんとなくでしかわからないけど、そう責める必要はない。あなたは何も間違ってなどいないし、できないことを誇りこそすれ、駄目だと思うことはない。その心は、大切に持っていた方が良い。それを責めるよりも、覚えていてほしいことがある」
そう言ってヒバリは静かに自分達を見上げていた子供の頭にそっと手を乗せた。ゆっくりとその髪を梳くかのように撫でる。
「この子と一緒に逃げてほしい。何があったとしても、よほどのことがない限り私の命が消えることはない。だから、いざその時は、その時だけは、決して迷うことなくこの子を連れて逃げてください。少なくとも凪殿を殿下にお返しするまで、すべては私の責任下であり、あなたはそれに従う必要がある。だから、これは命令です」
他者が聞けば越権にもほどがある傲慢な言い方であった。身分の差はあるかもしれないが、凪の主はサーミフであってヒバリではない。サーミフの客人でさえ凪に命令する権利はない。ましてその客人の付き人であれば尚更だろう。だが、この恐ろしい非現実的な光景に思考が麻痺してしまったのだろうか。凪はさほど不思議に思うことなく、ただ親を信じる子供のように頷いた。それを見てヒバリは微笑み、しゃがんで子供の目線に合わせると、その小さな身体を抱きしめている。何かを囁いているのだろう、泣きそうになりながら子供が何度も何度も頷いた。その様子を静かに見つめ、そして凪は重すぎる手のひらのそれを隠すよう懐に仕舞い込んだ。
ともだちにシェアしよう!

