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第256話

「…………」  そっと、小さく呟いたヒバリが何もない首元を掴む。いつもはただ穏やかに微笑み、あるいは苦笑程度しか見せなかったヒバリの顔がクシャリと歪んだ。泣きそうな顔のまま、彼は凪の方へ視線を向ける。 「仕方がないから、玄関の方へ行こう。幸いと言えるかわからないが、あのわかりやすく大きな扉がきっと、玄関に繋がっているだろうから」  あちらに行こうと言った彼は、もしかしたら自分が今どんな顔をしているのかわかっていないのかもしれない。その唇が、声が、震えていることにさえ気づいていないのかもしれない。そんなヒバリを見て腕の中の子供は瞳を揺らめかせた。 「大丈夫、ですか?」  多少ボンヤリとはするものの、廊下にはあの霧が無いため凪の思考が消されることはない。だからこそわかるその不自然さに問い掛ければ、彼は不思議そうに首を傾げながら大丈夫だよと答えた。その瞬間、大きなうねりが凪の心に襲いかかる。どうしてか、誰かに縋って泣きじゃくりたい気分になった。

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